こんにちは、松波慶次です。
ついにきました、前回、前々回ご紹介した『一瞬の風になれ』の最終巻!
『一瞬の風になれ 3~ドン~』をご紹介します。
第1部、第2部の感想は下記からご覧ください。
【一瞬の風になれ 1~イチニツイテ~】”陸上”を描く熱い青春小説
【一瞬の風になれ 2~ヨウイ~】惜しまぬ努力で天才に挑む
以下ネタバレ注意です!
タイトル:一瞬の風になれ 3~ドン~
著者:佐藤多佳子
目次
あらすじ
ショートスプリンターの一年生・鍵山は、自信過剰で部の雰囲気を乱す困り者だった。部長である新二は、頭を悩ませる。
4継も、根岸から鍵山に代わり、鍵山、連、桃内、新二というショートスプリンターだけのメンバーになったが、根岸がいたときのように安定したバトン渡しができない。
高校3年生、最後の”走り”。新二は連や仙波に勝てるのか? ”自分の走り”をできるのか?
感想
”好きなこと”だからこそ、誰にも譲れないことや、プライドもある。鍵山にとって連は「速くて尊敬できる先輩」で、桃内は「レベル下の存在」だった。
先輩・後輩の立場をわきまえて行動すること、言葉を発することは大切。それができずに、実力だけで相手への接し方を変える鍵山は、最初は嫌なやつでした。
でも、連と同じハムストリングスの故障をし、自分を見つめなおす機会を得て、変わりました。人間関係、部活動の一員という自覚、春高のメンバーとして走る責任。
自信やプライドがあることは、いいことだと思います。勝負事では、その人の活力、オーラとして相手を圧倒することも、味方を鼓舞することもできる。
失敗して悔しがること、挫折することも、もちろんいい。ただ、それで相手に八つ当たりしたり、僻んで腐ったりしてはいけない。バネにしなくては。さらに上手くなろうとする意欲に。得た気付きを次に活かせばいい。
鍵山はケガから復帰して、4継メンバーとしてバトンの練習に打ち込みます。自主練もして、見下していた桃内のアドバイスも素直に聞きます。
関東大会を前にして、鍵山はやっと、春高陸上部員になれたのだと思います。
鍵山と交代し、インターハイ優勝という大きな夢を託した根岸は、かっこいいです。鍵山を交えたメンバーでのバトン渡しが上手くいかなくて、新二と桃内が「関東も根岸のままで……」と考えたのに、根岸はきっぱりと断りました。
関東大会まで繋いだ4継を走りたい思いはあったはずなのに。根岸は大人で、冷静で、新・4継メンバーの可能性を誰よりも信じていました。
人間関係や心情に、心揺さぶられ感動することはしばしばありましたが、今作を読んでいて一番感じたのは、”緊張”でした。
県大会の走り、関東大会の走り。特に、関東大会でのインターハイをかけた一発勝負の走りは、ずーっと心臓がバクバクと打ちっぱなしで、実際に競技場にいて応援しているかのようでした。
結果は、新二も連も100mでインハイ出場。1位・連、2位・仙波、3位・新二。100mでは、新二は仙波と並びました。1年のときは、新二にとって仙波は雲の上の存在でしたが、努力を惜しまず走り続けたことで、並べるまでになったのです。
そして、4継は優勝。もちろん、インハイにも出場します。鍵山、連、桃内、新二は、お互いの力を思う存分出せるバトン渡しができ、最高のリレーをしました。アンカーの新二は、怒涛の勢いで迫る仙波に先を譲らず、ゴールへ。ライバル鷲谷に、ライバル仙波に、初めて勝ちました。
努力を知っているから、感動しました。緊張ではなく、興奮で心臓がバクバク鳴りました。
熱い。本当に熱い、高校生たちの”走り”でした。
物語は、そこで終わりを迎えます。進出した関東大会200m走や、インハイは描かれていません。興奮冷めやらぬまま、新二たちの次の”走り”に、思いを馳せます。
本当に、素晴らしい作品でした。新二の兄・健一もボールを触れるぐらいに回復したので、今後サッカー選手として復帰することを思うと、安堵しました。
希望がある。
情熱がある。
興奮がある。
人間にとって、人生において大切なことを教えてくれるーー。
大好きな作品です。