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【地獄変】傲慢な男が地獄絵を描くために失ったものとは?芥川龍之介の代表作の1つ

こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、芥川龍之介の短編集『地獄変』です。

再読作品になります。

以下ネタバレ注意です!

タイトル:地獄変
著者:芥川龍之介

目次

あらすじ

凄腕だが、その傲慢さから嫌われていた絵師の良秀。ある日、溺愛する娘が仕える大殿様から「地獄の絵」を描くことを命ぜられる。

「実際に見たものでないと描けない」と話す良秀は、美しい女が燃え盛る牛車の中で苦痛に悶える姿を望む。

大殿様は、良秀の望みを叶えることを約束したが、その方法はあまりにも惨たらしかった――『地獄変』。

表題作他『羅生門』や『鼻』、『蜘蛛の糸』等11作を含む。

感想

『地獄変』は、恐ろしい話です。身の毛がよだちました。狂気でもあり、興奮でもある。燃え盛る炎を見つめ、恍惚とした表情を浮かべた、良秀のように。

牛車の中に入れられたのは、良秀の娘でした。普段は誰に対しても傲慢な態度をとるのに、娘に対しては甘く、親バカになります。

そんな良秀に育てられた娘はわがままかと思いきや、慎ましく、謙虚で、優しい心を持っていました。

大殿様が良秀の娘を牛車の中に入れた理由は、絵に執着する良秀を戒めるため、とは思えませんでした。大殿様の言動の端々から、やはり思いを遂げられなかった腹いせに……と思ってしまいました。

娘が燃えているとき、かつていじめられているのを助け、可愛がっていた猿が牛車に飛び込んできたのは、本当は良秀のしたいことだったのではないでしょうか。

良秀と猿は直接的に関わりはありませんが、良秀が人間の負を詰めた入れ物だとすると、猿は良秀の「人間が本来持っている慈愛」を詰めた入れ物だったのではないか。

どうしても、良秀と猿の繋がりを考えてしまいます。それほど、この猿は作中で重要な役割だったと思います。

『地獄変』以外にも印象的だった話は多くありますが、中でも『秋』が好きだと感じました。

この本、再読ですが『秋』については記憶に残っておらず、初読みの感覚で読み進めました。

俊吉を好きな、信子と照子の姉妹。小説を書くという点で心通わせていた俊吉と信子が結婚すると、周りの人間は信じて疑わなかったが、信子は他の男と結婚した。

理由は、照子も俊吉を好いていると、信子は気付いていたから。妹に俊吉を譲るため、信子は俊吉へ思いを伝えぬまま、人妻となる。

照子は信子の真意に気付き、心から詫びた。そして、俊吉と夫婦になった。

夫を愛しながらも満足感を得られない信子と、俊吉の気持ちが本当は自分に向けられていないことに気付く照子。

多くの人が共感するような、切ない話。芥川龍之介が描く男女の話も、面白いですね。

巻末には『鑑賞』というタイトルで作家・北方謙三氏のお言葉が載っています。『三国志』や『水滸伝』などの歴史小説を執筆され、そこに描かれるハードボイルドな内容がとても好きなので、食い入るように読ませていただきました。

こちらの『地獄変』をお読みの際は、ぜひ巻末まで楽しんでいただけたらと思います。