こんにちは、松波慶次です。
小説投稿サイト「エブリスタ」に投稿していた短編コメディ小説「摩訶不思議戦国アドベンチャー」第14弾。
武田信玄と高坂昌信の、のどかな会話です。
※執筆時期は1、2くらい前
山梨
「なぁ昌信。山梨っていいよね」
「……突然どうされました? 御館様」
自分の主君、武田信玄の居室に呼ばれた高坂昌信は、緩んだ同意を求められ目を瞬かせた。
「いやさー、わしが治める国っていいなぁって思って」
「はぁ。御館様が統治されておりますので、いい国だとは思いますが」
昌信は信玄の意図が読めず、困惑するばかりだ。国の治世の良さをただ自慢したいがために呼び出したとは思えず、頭を回転させる。
(これは、山梨のアラを私に見つけさせて、そこを補うためにより高度な政をしたいのではなかろうか? ともすれば、何か山梨の欠点を進言しなくては)
のほほんと上機嫌な信玄の前に平伏し、昌信は口を開く。
「お言葉ですが御館様。山梨は確かにいいところです。しかし、大切な資源が不足しております。それは、海がないーー」
「山梨はぶどうとか果物も豊富だし、山や川もあって自然豊かだし、気持ちいいよね」
「……」
不自然に言葉を被せてきた信玄の顔を凝視する。しかし、信玄は何事もなかったかのように相変わらずのほほんとしている。
「海がない、ということは、塩がないということ。それは、人間にとって大切な塩分ーー」
「ワインは美味いし、雪が降れば風情もあるし、信玄餅とかいうわしの名前を使ったおいしーい菓子もある。申し分ないよね」
「……御館様」
「ん?」
「何か、海に対して恨みでもありますか?」
二度目ともなると、昌信もとうとう聞かざるをえなくなった。信玄は、山梨のアラを見つけたいわけではない。反対に、アラを聞こうとしない。昌信にとって信玄はいまや、訳の分からないおっさんとして映っていた。
「……実はさ、昌信」
「はい」
「謙信に言われたんだ。『お前の国、海ねーじゃん。夏になったら海水浴もできないね。陰キャかよ』って。わしも頑張って反論しようとしたが、海水浴ができないのは事実。そして、海水浴をしたい願望もあったから、悔しくて何も言い返せなかったんだ」
「海水浴……」
「だからさ、山梨のいいところを誰かに話して、共感してもらいたくて。海水浴ができなくてもいいんだって、自分を納得させたかったんだ」
(……なんて、低レベルなっ!)
確かに、上杉謙信のいる新潟は海に面している。だからって、そんなことで呼ばれた昌信もまた、悔しくて何も言えずにいた。
「昌信。山梨って、いいところだよな?」
「……すみません、腹が減ったので、ほうとうでも食べてきます」
「おぉ! ほうとうもあったな。魅力満載だ」
(アホになるくらい、平和だ)
昌信は頭を抱えながら、信玄の居室をあとにした。
完
あとがき
こりゃ、アホになるわ(笑)
武田軍だと、山県政景も好きですが、高坂昌信も好きなんです。
タイトルは忘れてしまいましたが、高坂昌信が主人公として描かれている歴史小説を読み、
高坂さんかっけ~~!!
と感動し、そのときからファンになりました。
海津城(現・松代城)も見に行き、高坂さんに思いを馳せ……。
懐かしいなぁ~。
あと、余談ですが。
こういう歴史ものの話を書いているとき、一発で漢字変換されないのがもどかしい!
武将の名前とか、城の名前とか、一発変換されてほしいですね。