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【海と毒薬】良心の呵責・罪悪感・病院とは?|生体解剖事件の小説化

こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、『海と毒薬』

遠藤周作氏の作品で、私は初読み作家さんでした。

以下ネタバレ注意です!

タイトル:海と毒薬
著者:遠藤周作

目次

あらすじ

「私」の近くに住む「勝呂」という医者は、腕はいいが暗く、愛想のない男だった。

その勝呂は、米国人捕虜を生きたまま生体解剖した事件の関係者の一人だという。

当時、医局の研究生だった勝呂は、同じく研究生の戸田とともに、捕虜の生体解剖に参加した。医学の発展のため、何も知らない無垢な米国人たちの肺を切り、血液の代わりに注入できる塩水の量をはかり、どの程度の空気を血液に入れたら死ぬのかを実験する……。

戦争末期に、実際に九州の大学付属病院で起きた、生体解剖事件を小説化した作品。

感想

「ノンフィクション」というカテゴリーにしたけど、事実をそのまま小説にしたわけではないから、ちょっと違うかもしれない。でも、実際の事件を小説化しているから、ノンフィクション?とさせてもらいました。

この作品は、「ヒューマンドラマ」とも「サスペンス」とも、なんだか違う気がする。戦争末期に実際に起きた恐ろしい事件が小説化されているから、そういうカテゴリーで括っていいのかもわからなくて……。

ここでの「感想」は、もちろん、小説の感想。事件の感想ではありません。

本作に登場する勝呂は、戦争という不安定な、人が空襲で死ぬか病気で死ぬかという時代を生きた研究生。罪悪感が欠如している戸田と違い、患者に真剣に向き合い、「悪いこと」に対しても良心の呵責に苦しむ心を持っていました。

それでも、「戦争」という時代が、患者を生体実験の道具にする病院が、彼の心に「どうでもいいや」という諦念を抱かせます。

死にそうな患者は、もう助からない患者は、医学の発展のため、手術が行われ、医師の知識や腕を高める礎となる。勝呂が気にかけていた「おばはん」は、実験道具にされずに済んで、良かったのかもしれない。

米国人捕虜の生体解剖以外にも、二人の外科部長が医学部長の座を狙い、点数稼ぎや周りを固める動きもある。それを読んで頭に浮かんだのが、「白い巨塔」。ドラマしか見たことないし、あれは教授の座を狙う話だったからちょっと違うけど、病院ってありがちなのかなって思った。

それも、本作では点数稼ぎのために手術を行なった患者を死なせてしまい、手術中の死亡に見られないように、死体を包帯巻きにしてごまかすなど……恐ろしい所業。

治る見込みのない患者。自分の地位のことしか考えない医者。……闇。そう、底なしのように真っ暗な闇のような病院で、勝呂は葛藤し、諦め、とうとう人間を「死ぬことを前提」とした「解剖」をする関係者になってしまう。

心情の描写も素晴らしいけれど、手術(肋骨折るとことか)の描写も身体をつい捩ってしまうほどリアル。3時間ほどで読み終えたけど、悪い意味でなく、けっこうキツい作品でした。

作品を読む際には、解説まで読むことをおすすめします。執筆者の平野謙氏によって、実際の生体解剖事件についてと、本作『海と毒薬』との違い、本作が伝えたかったことが綴られているので、作品の理解をより深められると思います。