浮かぶもの|本でモノを挟み染みを作る…やがて浮かんできたものは?

浮かぶもの|本でモノを挟み染みを作る…やがて浮かんできたものは?

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こんにちは、松波慶次です。

ホラー×ショートストーリー『浮かぶもの』の小説と朗読動画を載せています。

目次

あらすじ

部屋で見つけた一冊の分厚い本。

僕はそこにいろいろなモノを挟んで、いわゆる押し花のようなものを作っていこうとした。

まずは花、次に蟻……染みを作れば作るほど、黒く染まっていくページがある。

やがて、そこに浮かんだものはーー。

小説『浮かぶもの』

文字数:約1200字

全てのページが白紙だなんて、おかしなこともあるもんだ。
そんなことを思いながら、その一冊の本を手に取った記憶がある。

僕がまだ幼いとき。それはいつの間にか、僕がいる子供部屋の本棚に存在していた。
国語辞典ほどの厚みのある本は、お絵かき帳にするには使いづらくて、日記を書くにも、縦線も横線も引かれてないから不向きだった。
だから僕は、その厚みと重さを活かして、色々なものを挟んでいこうと思った。
いわゆる、押し花のようなものを作っていこうとしたのだ。

始めは、庭に生えている花や草。
本に挟み、体重をかけて閉じる。
開くと、白紙のページに染みを付け、ぺちゃんこに潰れたそれらが現れる。
僕は、潰れた花や草より、その染みの方が気になった。
花と草から漏れ出た、少しだけ黄色や緑色に染まった液体。
それを見つめていると、どうしようもない好奇心が僕を襲った。
他のモノを挟んだら、どんな染みができるんだろう。

次に挟んだモノは、蟻。
逃げ惑う蟻を本に乗せ、体重をかけて挟む。
本を開くと、黒い潰れた塊と、焦げ茶色の染みがページに染み込んでいた。
次は、蝶々。黄色い液体をページに染み込ませた。
小さい蛙を挟んだときには、なかなかカラフルな染みができた。
僕の白紙の本は、絵の具で試し書きでもしたかのように、様々な色で染まっていった。

ただ、不可解なこともあった。
本の、一番最後のページ。
そこには、まだ何も挟んでいないはずなのに、黒い染みがぽつぽつと浮かんでいる。
その染みは、本に新たな染みを付けていくと、だんだん増え、しかも大きくなっているようだった。

それでも、恐怖よりも染みを付けていく楽しさに夢中になっていた僕は、黒い染みのことなんて気にならなかった。

最後のページの黒い染みは、徐々にページの全体に広がっていった。
徐々に。徐々に。徐々に。

気が付くと、それは人の顔になっていた。
恐ろしい形相で僕を見つめるそれは、またしても僕の好奇心を刺激した。
僕は、その顔に染みを付けたくなった。
挟むものを探す。視界に入ったのは、僕の手だった。
そのページに挟む。体重をかける。手は潰れない。薄くしなくちゃダメだと思い、金槌を持ってくる。
大きく振り上げ、手に叩きつけた。
赤い染みが付いた。でもまだ足りない。

もっと染みを付けたい。足をページに乗せる。金槌で叩く。染みが付く。
恐ろしい形相が、もっと凄みを増した。
もっともっと、その顔を恐ろしくしたかった。
頭を挟めば、赤い染みを一気に付けられるのではないか。
名案だと思い、頭を挟む。
恐ろしい顔が、目の前にある。
その顔が、気味悪く笑った気がした。まるで、罠にかかった獲物を嘲笑するように。
本に重みがかかる。誰がかけているのかは分からない。
頭が痛い。頭蓋骨が割れそうだ。
それでも僕は笑っていた。蟻や蝶々、蛙を挟むときと同じように。染みを付けられることに、興奮していた。
涙が溢れた。それは、痛みか、それとも……。

本が閉じられる。
綺麗な染みができた。

朗読動画『浮かぶもの』

動画時間:約6分

あとがき

モノ作りは好きです。日常的にDIYをやっているわけではありませんが、「モノを作る必要性が生じたとき」には、DIYをしています。

そういうときに、金槌で釘を打つとかあるじゃないですか。で、カンカンカンと金槌で釘を打っていて、カンカンカシュっと、金槌が釘をかすめて指に当たってしまったとき、痛いですよね。じーんと、地味に響きます。

一度痛い思いをすると、続行するのが億劫になります。でも、やらないと終わらない。慎重さが増すものです。

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