こんにちは、松波慶次です。
小説投稿サイト「エブリスタ」に投稿していた短編コメディ小説「摩訶不思議戦国アドベンチャー」第10弾。
浅井長政とその妻、市の物語。
※執筆時期は1、2くらい前
ツンデレ
小谷城にて、浅井長政とその妻、市は雪の積もる庭を見ながらお茶を飲んでいた。
「今年も、もう終わりか」
長政がしみじみと発する。
市は湯飲みの中に立つ茶柱を見つめながら、その美しい顔を歪ませた。
「乱世は、まだ終わりませぬが」
「……そうだな」
年の瀬だというに、二人は神妙な面持ちになる。雪がしんしんと降る音しか聞こえない空間で、しばらくして長政が口を開いた。
「市、今年も一年、ありがとな」
「えぇ」
「愛してるぞ」
「……貴方様のそういうところ、嫌いです」
市は湯飲みを置き、立ち上がると隣室へ姿を消した。
普段通りの冷たい市の態度に、長政は苦笑した。
すると、後ろに人の気配。殺気はないから、間者ではない。
肩に何かが乗せられた。肩から背中にかけて温もりが広がり、長政の身体を優しく包み込んだ。
「風邪を引かれます。羽織っていてください」
厚手の羽織を持ってきた市の声が、長政の背中から聞こえた。
そして、恥ずかしがる小さな声も続く。
「愛しています。来年も、良き夫婦でありますよう」
長政は、市の真っ赤に染まっているであろう顔を想像して、ぷっと吹き出す。
即座に背中を蹴られたが、市がくれた温もりのおかげで、痛みはなかった。
完
あとがき
市の性格は、歴史小説や漫画によって違いますよね。
「センゴク」という漫画では、市は綺麗だけどきつい性格をしていました。
長政と市は、よき夫婦だったと聞いています。
乱世だった当時、小谷落城のときの2人に思いを馳せると、苦しくなりますね。