こんにちは、松波慶次です。
小説投稿サイト「エブリスタ」で短編で連載していたコメディ小説「摩訶不思議戦国アドベンチャー」⑤です。
蜻蛉切ってご存知ですか? 徳川四天王の一人、本多忠勝の愛用の槍でございます。
※執筆時期は1、2年前くらいです
蜻蛉切
本多忠勝は、夢を見ていた。
一匹の蜻蛉が、我が得物の刃に止まった。その途端、蜻蛉は胴体が斬れ、空っぽになったその身は地面に落ち、土へと還った。
蜻蛉切の名前の由来だ。忠勝の得物は、この逸話から蜻蛉切という名になる。
場面が、巻き戻された。今度は一匹の蝶が刃に止まった。その途端、羽根が胴体から離れ、空を飛ぶ術を失った蝶は無様にもぽとりと地面に落下する。
「なんと、蝶々切と名付けよう!」
主君、徳川家康が嬉しそうに声を上げた。
忠勝は、かわいすぎる名前に内心不服であった。
またしても、場面が巻き戻る。鳥の糞が空から落ちてきた。その糞は得物の刃に直撃し、斬れたというより、粉砕し辺りに飛び散った。
「なんと、汚いのぉ。忠勝、糞礫切(くそつぶてぎり)と名付けるしかないわ」
家康は、心底侮蔑する目で得物を見つめた。
忠勝は、糞にまみれた得物を握る。耐え難い臭いがしたーー。
「はっ!」
とめどない汗を流しながら、忠勝は目を覚ました。
跳ねるように起き上がり、乱れた呼吸を整える。
そして、いま見たものが夢であることを確認し、安堵するとともに言葉が漏れた。
「斬れたのが蜻蛉で良かった……」
心から、そう思うのであった。
完
あとがき
歴史用語を書いているときに、一発変換できないのがすごくもどかしい!!
蜻蛉切って打とうとすると、「トンボきり」になって、うわぁーーー(゚Д゚)!!となりました。
(パソコンは優秀なので、一度入力すると以後、打ちたい用語の漢字で出るようになりますが)
岡崎城近くにある歴史館で、実物大(重さも同じ)の蜻蛉切を持てる体験コーナーがあり、嬉々として持った思い出があります。
重いし、長いし……忠勝、よくこんなもん振り回してたな(笑)