こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、『テスカトリポカ』です。
550ページ越えの大作、面白かった!
以下ネタバレ注意です!
タイトル:テスカトリポカ
著者:佐藤究
目次
あらすじ
メキシコ人の母と暴力団に属する日本人の父をもつコシモは、ネグレストを受け読み書きも言葉を喋ることも上手くできなかった。
しかし、力だけは強く、背丈も体格も父親を凌ぐほどになっていった。
メキシコでは、敵の麻薬組織に兄弟と妻子を殺されたバルミロが、一人の日本人と出会いあるビジネスを企てる。
舞台は日本へ。麻薬と臓器と血が凄まじい惨劇を起こすーー。
感想
この記事のタイトル、「壮大な麻薬の物語」なのか「壮大な臓器売買の物語」なのか……決めかねたのと、どちらを書いても「タイトルでネタバレ」になってしまうのはダメだと思い、○○で着地しました。
他にいいタイトルが浮かべば良かったのですが、何と言いますか、いい意味で、読み終わったあと心が空っぽになったんですよね。
残虐さに引いたからとか、恐怖に包まれたからとかではなく、ちょっとした虚しさといいましょうか、とにかく空っぽな感じになったんです。
ストーリーは面白かったです。日本にいるコシモとメキシコのバルミロ。どう繋がるかなーっと思っていたら、心臓移植の臓器売買ビジネスでバルミロが日本に来ることになって、殺し屋を育てると言っていたからここでコシモかと思いきや、ナイフ職人で呼ばれただけ。
ネグレストされ、自分の力をコントロールできないだけで純粋な心を持ったコシモが、大好きな彫刻の仕事ができることは、良かったと思いました。職人の師匠であるパブロとの仲も良好で、本物の親子のように優しい時間が流れていて、そのときばかりは心がほっとしていました。
バルミロとの仲も、「父さん」「坊や」と呼び合ったり笑いあったりしていたときは2人とも楽しそうで、残虐性というものが束の間見えなくなっていたんですよね。
そういう「優しい」場面がところどころあったから、かき乱されたんですよね。
悪人であるバルミロに嫌悪感のみを抱くことができなかったり、パブロとコシモにこのまま師弟関係を続けて欲しいと願ったり。
パブロとコシモのカヌーの場面は、とても切なかったです。
ただ残虐で冷酷非道な、麻薬や臓器売買のストーリーなわけではない。神々の話、人間関係、ストーリーの壮大さ……時間を忘れるほど楽しませてくれる作品です。