低確率の幻想的な出会い|雪山で出会った美しい存在とは?【ファンタジー】

こんにちは、松波慶次です。

雪山×ファンタジーの短編小説『低確率の幻想的な出会い』です。

朗読動画も載せているので、動画で楽しみたい方はぜひ動画をご覧ください! 今回の動画には、初めて「あとがき」ならぬ「あと声」を入れています。

目次

あらすじ

大学生の友達とスノーボードをやりにゲレンデに来ていた斉藤判は、コースから外れ、ひとり雪のなかを歩いていた。

すると、妙な空飛ぶ雪だるまを発見。追いかけると、そこにいたのは薄着の女の子。なぜこんな寒いところに?

雪山で起きた、ファンタジーな出会い―ー。

小説『低確率の幻想的な出会い』

文字数:約3000字

 困ったぞ。完全にコースから外れた。右を見ても左を見ても真っ白な雪と、雪に幹を埋めた木しかない。
 俺は足からスノーボードを外し、立ち上がる。そして、俺がやらかしてしまった出来事を思い返した。
 新卒で社会人になって三年目。大学のときからの友達、足立秀行と、毎年恒例のスノーボードをやりにゲレンデに来ていた。
 ゴンドラで頂上まで登り、コースを滑っていると、目に飛び込んできたのは立ち入り禁止エリアの看板。その先は、急斜面のパウダースノー。
「うわ、すげぇふかふかしてそう。滑りづらそうだな」
 秀行がゴーグルを外しながら、その斜面を覗き込む。
 若干恐れが浮かんでいるその顔を見て、俺のチャレンジ精神に火が付いた。
「なぁ、もしここを滑り抜けたら、格好いいと思わねぇか?」
「は? 無理だろ。すぐに雪に埋もれて動けなくなるぜ?」
「まぁ見てろって」
 そう言うやいなや、俺は看板の横をすり抜けパウダースノーに飛び出した。
「おい、判! やめとけって!」
 後方で、秀行の叫びが聞こえる。俺はすでに滑ることに集中していた。少しでも気を抜くと、秀行の言うように身体が雪に埋もれて動けなくなってしまう。なんとしても、このまま滑り抜けるのだ。
 俺の強い思いも虚しく、ボードは徐々に雪に埋もれ止まり、しかも、そのままバランスを崩して急斜面に身体が投げ出された。俺は雪を撒き散らしながら前回りで転がり落ち、気が付くと、この場所に倒れていた。
 どのくらい落ちたのか。斜面を見上げても秀行の姿など見えやしない。
「くそっ」
 自分の馬鹿さ加減に悪態をつきながら、ボードを持って歩き始める。ゲレンデのマップを思い浮かべながら、コースがありそうな方向に向かって。
 こんなときに頼りになるのがスマートフォンなのだが、あいにく持ってきていない。ウェアに入れて滑っていると、破損する恐れがあるからだ。いまはそれをひどく後悔している。
 深い雪に、足が沈む。足首くらいまではすっぽりと埋まってしまうから、ただ歩くだけでもすごく疲れる。
 足元の雪を恨めし気に見つめていると、視界の端を何かがよぎった。虫か? こんな寒いところに? 不思議に思い顔を上げると、それは小さな雪だるまだった。全長が俺の手くらいの大きさで、木の枝で作られた手と足がついている。その手には小さな雪玉を持っており、雪の結晶で作られた羽根が背中に生えていた。
 俺は何も考えずに、頬を思いっきり殴った。だけど、その雪だるまはやはり存在し、笑顔を浮かべたまま空を飛んでいる。羽根を小刻みに動かし、数メートル先にある雪のこぶに向かう。しかも、一体だけじゃない。何体もの雪だるまが、せっせとこぶに雪玉を運んでいた。
 どうやら俺は、頭でも打ったらしい。信じられない光景に混乱したまま、雪玉が運ばれているこぶに足を進める。
 近付くと、それはこぶではなくかまくらだった。一メートルくらいの高さで、その入り口に雪だるまたちは雪玉を置くと、また飛び立っていく。
かまくらの中を覗き込む。すると、そこにいたのは体育座りをした九歳くらいの女の子だった。
「何? あなたもしかして人間?」
髪は肩につかないくらいのショート。そして、こんなに雪積もる中で、白いノースリーブのワンピースという、見ているこっちが寒くなる服装をしていた。
 俺はまたしても、頬を殴った。先程よりも強く。女の子はそんな俺の行動を見て呆れたように溜息を吐くと、苛立ったように声を上げた。
「ちょっと、私はちゃんと存在しているわよ。勝手に夢や幻だと思わないで」
「え、だって、寒くないの? そんな格好で」
「私が人間に見える? 私は雪女よ。名前くらい聞いたことあるでしょ?」
 合点はいったが、にわかに信じられることではない。それこそ夢や幻みたいじゃないか。
「本当に、雪女?」
「そうよ」
 しつこいわね、というように睨み付けてくる女の子を見下ろす。生きている中で雪女に出会う確率は相当低いだろうが、いまのこの状況はその少ない確率を見事に引いてしまったと思わざるを得ない。さっきからせっせと雪玉を運んでいる、空飛ぶ雪だるまもいることだし。
「えっと、じゃあ雪女ちゃんの、家ってことかな? このかまくらは?」
「こんな小さいところが家なわけないでしょ? この山全部よ! ただ、いまは暖冬のせいで風邪引いちゃったから、雪の中に籠っているだけ」
「え? 風邪引くの?」
「引くわよ! 咳も鼻水も出るわ」 
 なるほど。じゃあこのかまくらは、俺たちで言う布団替わりみたいなものか。
「暖冬だと、風邪引くの?」
「あなた、質問ばっかね。あなたたち人間は、寒いと風邪引くでしょ? 私は逆。暖かいと、風邪引くの。だから、身体を冷やすためにゆきんこたちに雪玉を集めてきてもらっているの」
 女の子改め、雪女はゆきんことやらに目をやる。この飛んでいる雪だるまが、そうみたいだ。
「いまのままじゃ力も思う存分に出せないし、熊に襲われたら堪らないから、早く風邪を治したいのよ。普段だったら熊ぐらい、簡単に凍らせることができるんだけどね」
「すごいね、雪女ちゃん。ちょっと待ってて」
 俺は不審な顔を浮かべる雪女から離れ、持っていたボードを横にして積もっている雪に突き立てると、ブルドーザーのように雪をかまくらに運んだ。大量の雪がかまくらの前に集まり、それを二度三度と繰り返すと、かまくらの周りに雪山ができた。
 俺の様子を見守っていたゆきんこたちは、称賛の拍手を送ってくれた。
 雪女も、かまくらの入り口まで覆った雪の隙間から顔を覗かせ、俺の行動に驚いたのか口が開いたままになっていた。
「どう? もっと欲しい?」
 俺が得意気に聞くと、雪女は初めて頬を緩め、ふっと笑った。
「十分よ。ありがとう。あなた、人間のくせにいいやつね。名前は?」
「斉藤判。雪女ちゃんは名前ないの?」
「私? 雪女としか呼ばれたことないわね」
「じゃあ、美雪ちゃんはどう?」
「ミユキ?」
「美しい雪って書いて、美雪。雪女ちゃん綺麗だから」
 俺が軽々しくそんなことを言った途端、雪女は頬をゆでだこのように赤くし、俯いた。どうやら、美しいという言葉に沸騰してしまったようだ。
 そして俺も、自分の恥ずかしい言動に顔が熱くなり、俺たちの熱で周りの雪が溶けてしまうんじゃないかと心配になった。
「べ、別にそれでいいけど。ってか、あなた早く帰りなさいよ。私が力戻ってきたら、近くにいる生物は徐々に凍ってくるわよ」
「それは困る! ただ、俺帰り道が分からなくて……」
「あっちよ」
 まさか、俺の命名を承諾してくれるとは! 嬉しくなりながら、美雪が指差した方を見る。何もないふかふかの雪にゆきんこたちが並ぶと、一瞬にしてそこが圧雪され、コースができた。
「ここを真っすぐ進むと、あなたが行きたいところに出られるわ」
「おぉ! ありがと!」
 俺は早速ボードを装着し、滑走準備を整える。
「……ねぇ、判」
「ん?」
「今度は万全の状態であなたに会いたいわ。私のすごい力、いっぱい見せてあげるんだから」
「ははっ。美雪が万全の状態じゃ俺凍らされちゃう! 風邪、お大事に!」
 美雪と別れ、滑り始めて暫くすると、ゲレンデのコースに出た。振り返ると、美雪が作ってくれたコースはなくなっていた。
「おい! 判、無事だったか⁉」
 コースの一番下まで滑ると、秀行が俺の姿を見つけて駆け寄ってきた。
「マジでパトロール呼ぶ寸前だったんだからな! ……お前、顔真っ白だぞ? 本当に大丈夫か?」
「え、マジ? ……冷てっ!」
 頬を触ると、まるで氷のように冷たかった。
 もしかして、実は結構危うい状況だったんじゃ?
 それでも、美しい雪女との再会を望む、俺がいた。

ー終ー

朗読動画『低確率の幻想的な出会い』

動画時間:約11分

あとがき

動画じゃ「あと声」入れてて、こっちはちゃんと「あとがき」を入れるというね。せっかくだから内容を変えてみます。

私はウィンタースポーツが好きで、主にスノボーをやります。立ち入り禁止エリアは、入っちゃダメです。雪崩の恐れがあるし、雪崩が起きたらルールを守って滑っている人たちの命が危うくなるので。

楽しく安全に滑るには、ルールを守ることが大事! ルールを守っていても、野ネズミやシカなど、素敵な動物たちに会えるのですから。

雪山でライチョウを見るのが私の夢です。

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