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【旅する練習】芥川賞候補作!サッカー少女と小説家の旅の行方は……

こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、第164回芥川賞候補作『旅する練習』です。

以下ネタバレ注意です!

タイトル:旅する練習
著者:
乗代雄介

あらすじ

新型コロナウィルスの影響で学校が休みとなった亜美(あび)は、サッカーの合宿で利用した合宿所から持って帰ってしまった本を返しに行きたいと言う。

小説家である亜美の叔父は、唯一亜美のサッカーの練習に付き合える。2人は本を返しに合宿所がある鹿島へ向かうことにした。

亜美の叔父は、風景を描く練習。亜美は、サッカーの練習。それぞれ上達するために練習しながら、自らの足で旅に出る。

感想

実はこの本を読む前に、ひょんなことで結末を知ってしまいました。結末知っていても問題ないだろうと思って読み始めたのですが、結末を知らないほうが楽しめたと思います。

結末を知っていてもなお溢れるものがあったのは、それだけ亜美という少女が魅力的であり、「2人の旅」が綴られたこの作品の文体が自然だったからでしょうか。

「ネタバレ注意」って前書きしているので言ってしまいますが、亜美は旅が終わって一か月後くらいに死にます。交通事故で死にます。

プロのサッカー選手になるのが夢で、小学生なのに男女の力の差まで気にしていて、それでも練習することを、上手くなることを目指してひたむきに頑張っていた女の子。

天真爛漫で、人の心の変化に敏感で、優しい、大人になりかけていた女の子。

この物語は、小説家である叔父が、亜美との旅の様子を亜美の死後に記している、という設定になっています。

だから、生前の亜美の元気いっぱいな姿が浮かぶので、亜美の死は辛く、重いです。結末を知っていた私は「あぁ、ところどころ亜美の死を予感させるものがあるな」と感じていました。

「どこで亜美が死ぬんだろう。旅の途中かな? 旅が終わってからかな? 旅の途中だと、叔父さん、亜美のお母さんに怒られそうだな」なんて考え、身構えながら読んでいましたが、ついにその場面が来たときには、「あぁー、きちゃったぁ」とあってほしくなかった現実に胸が抉られました。

読み終わっても、亜美の元気な姿が浮かんで苦しいです。勝手な想像ですが、私は、亜美が合宿所から借りパクし、唯一読んで「面白かった」と言った本は、叔父の小説だったんじゃないかと思います。

結局、叔父はその本のタイトルを聞かず、分からずじまいですが(叔父も作中で後悔していました)。なんとなく、そんな気がするのです。

亜美の死という悲しい出来事はありますが、それを通じて、この作品は、ひたむきに頑張ることや相手に思いを伝えること、その日その日を大切に生きることを伝えていると思います。

得るものがある、小説だと思います。ぜひ、多くの方に読んでいただきたいです。