こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、『スイート・マイホーム』です。
夜、一人で読むには怖すぎます……。
以下ネタバレ注意です!

タイトル:スイート・マイホーム
著者:神津凛子
あらすじ
長野県は寒い。暖かな理想の一軒家を購入した清沢一家は、賢二と妻・ひとみ、幼い娘・サチ、赤子のユキの四人家族。
幸せな家族生活を送るはずだったが、不審な物音が……。誰かの顔、誰かの髪の毛が垣間見え、徐々に「家族」は壊されていく。
一体この家に、ナニがいるのか――。
感想
読んでいる最中、怖すぎて後ろが気になりました。人間的怖さが描かれた小説だと思って読みましたが、途中で何度か「おばけ」という言葉が。
髪の毛、顔、物音……あれ? おかしいぞ? 私が思っていたホラーと違う(;’∀’)
寝る前に読むものじゃありませんでした。そっとページを閉じ、明るい昼間に読了。
結論的には、人間的怖さが描かれた小説で合っていました。
大工の父をもつ本田は、家に特別な思いがあった。急逝した父が最後に建てた家に住んだ家族は、理想の家族ではなかった。
理想の家族、理想の家を求める本田。家を売る建設会社に勤め、自らが理想の家族を作ろうと恐ろしい行動に出る。
新築の家に住む家族とともに、その家に住む。合鍵を使い、勝手に家の中に入り込み、屋根裏や床下に潜む。
不倫相手は「理想の家族」の邪魔になるからと殺害し、自身の描く理想にない二人目の子供は排除しようとする。
本田の行動に気付いた同僚も殺害。邪魔者は、みんな殺そうとする。
異常な執念、異常な思い込み。現実と理想がないまぜになり、自分勝手に他人の「家族」を壊す。本田の場合、無自覚だから末恐ろしい。
作中、本田の同僚の甘利が悪役っぽくリードされたので、まんまとハマりました。作者の華麗なミスリードにつられ、私は甘利や妻を疑い、本田のことは「ちょっと鬱陶しいお節介な担当」くらいにしか考えていませんでした。
甘利の無礼のお詫びとしてわざわざ休みの日に花を持ってきたり、家に上がりこんでご飯を食べたりしたときには怪しさも感じましたが、一瞬のこと。
甘利の回想でやっと、「本田がやばいやつや!」と気付きました。
本田には恐怖し、主人公・賢二には嫌悪感を抱きました。賢二はのちのち、父親を殺したことなど自らの罪の記憶を取り戻したり、精神病の兄に対して理解を示したりして成長を見せましたが、なにぶん妻がいながら不倫(しかも子育て中)していたのがもうね、同情の余地なしって感じでしたね。
不倫相手が結婚するまで、約三年ほど不倫をし、その間に二人目のユキも生まれて……不倫相手が結婚するから終わりという受動的な(妻や子に申し訳ないという気持ちではない)身の引き方をしたので、色々大変な思いをしても「ほぉん、だから?」という気持ちがありました。
家族を守る、妻や子供を守るのは当たり前だし、慰安旅行中も妻を気にかけるのは当然のこと。そうすることで無意識に不倫の罪をなかったことに、もしくは贖罪しようとしていることに苛立ちました。
結局、妻や子に謝ることのないまま、妻は壊れ、ユキは視力を失った。本田はもちろん悪いやつでしたが、賢二も十分悪く、嫌なやつでした。
ラスト、「理想の家族」をやり直せると浅はかで甘い考えを抱いていた賢二。その時点で、私は妻から「離婚しましょう」と言われることを期待していましたが、結末は予想を上回り、妻がユキの目をフォークで刺すというもの。
それにはゾッとしましたが、賢二に対しては「もう元には戻らない」という現実を見せつけることができて、少しスッキリしました。
賢二の不倫。そこから、この家族は壊れていた。賢二が招いた当然の結末と、いえるかもしれません。