染み出す赤と、灰色の空|通り魔に刺された女性の人生回顧【ファンタジー】

こんにちは、松波慶次です。

ファンタジー短編『染み出す赤と、灰色の空』です。

小説と朗読動画を載せているので、動画でストーリーを楽しみたい方は動画をご視聴ください!

目次

あらすじ

通り魔に刺された「私」は、「死」を感じながら自分の人生を振り返る。

雪空の下、彼女が回顧した人生と、彼女の結末とはーー?

小説『染み出す赤と、灰色の空』

文字数:約1700文字

とうとう歩けなくなり、私はビルの外壁を背にして、路地裏に座り込んだ。
大通りから外れたこの場所では、誰の目にも留まらない。
そのため、刺された右脇腹から服に染み出る血を見て、悲鳴をあげる人もいなければ、救急車を呼んでくれる人もいない。
誰かに助けを求めようにも、すでに動くことは困難で、声を出す気力もない。
スマートフォンを取り出すことも、億劫に感じていた。
野良猫を追って、たまたま路地裏を歩いていたら、通りすがりの男に刺されてしまった。
知らない相手。ただの通り魔。猫も、見て見ぬふりをしてどこかに行ってしまった。
右脇腹を押さえる。自分の身体から出ているとは考えられないほど、大量の赤い液体が手に粘着質に絡みつく。
私の人生は、こんなところで終わりか……。
迫りくる死を直視したくなくて、少しでも気分転換になればと空を見上げる。
そこには、重苦しい雪雲が敷き詰められた灰色の空があった。

幼少期の私がどんな子だったか、正直、ほとんど記憶に残っていない。
頭のいい子だったと、親からは言われていた。
小学校では、他の生徒の模範になると先生から言われ、親はとても誇らしげだった。
中学校では、成績は常にトップ。言われずとも自ら勉強をし、親の手を煩わせなかった。
部活動のテニスでも優勝か準優勝のどちらかしか獲ったことがなかった。
勉強もスポーツもできる、文武両道の私のことを、親はいつも鼻を高くして周りの人に自慢していた。
優等生。自慢の子。親が喜ぶ言葉が書かれた看板を背負っていた私は、高校で初めて、親の鼻をへし折った。
先輩から、ある団体へ加入しないかと誘われたのだ。
その団体は、勇気百パーセントならぬ、怪しさ百パーセントでできた組織で、訝しい新興宗教団体、カルト組織と似たような臭いがした。
いわゆる「普通」の人間だったら絶対に近付かないような団体だが、いままでずっと「いい子ちゃん」でいた私は、その怪しさ、危険さに強く惹かれてしまった。
入会料は一万円だし、この団体でやっていける素質もあると言われたため、面白そうだと思い加入した。
そのことを知った親は、飼い犬に手を噛まれたかのごとく、猛激怒に猛反対。
脱退させるため、その団体に電話をかけようとしたから、初めて私は声を荒げて、反抗した。
もう私は高校生。バイトをして自分でお金は稼ぐし、迷惑はかけない。
私はあなたたちの操り人形じゃない。私の好きなように選択させて!
親は、それ以上何も言わなかった。
それから、私はその団体で修行をし、自分の「素質」とやらを磨いていった。
そして、二十歳になってやっと、その素質を開花させたのである。    
二ヶ月。素質を開花させてからたった二ヶ月で、私は刺され、死に直面している。
なんと理不尽な人生だろう……。

空から、綿毛のように粉雪が舞い降りてきた。
私の頬に当たると、しばらくその場に留まる。
体温が低下してきたためか、私に積もる雪はなかなか溶けない。
私から流れ出た赤いものに触れると、一瞬にして溶けていくくせに。
あまりに無常。情けない自分の姿を、嘲笑する。
とうとう、視界がぼやけてきた。
脇腹を押さえていた手も、糸の切れた人形のようにだらりと力なく垂れる。
さようなら、お母さん、お父さん。仲良くしてくれた友達、先輩方。
私を見捨てた野良猫よ、長生きしろよ……。

……こんなところか。
私はだらりと垂れ下がっていた右手を脇腹の傷口にかざし、左手を右手に重なる。
「えいっ!」
そして、気合を込めて一声掛けると、右手から淡い緑色の光が放出され、優しく傷口を包む。
ほんの一瞬の出来事だった。
染み出ていた血は止まり、穴の開いた感覚のあった傷口も塞がった。
私の頬に雪があたる。自然の摂理そのままに、雪は溶けていった。
私が加入した団体。それは、魔法を習得することを目的とした団体だった。
素質があるものしか加入できず、しかも、その中のほんの一握りの人間しか、魔法を習得できない。
私は「治癒」の魔法に優れた素質を持っていたらしく、修行を積み、三年でものにした。
私の他にも二人、治癒魔法を習得した人はいるが、希少性は高いタイプである。
「一度、『死に逝く人の人生回顧』、やってみたかったんだよねー」
お尻についた雪を払いながら立ち上がり、大きく伸びをする。
さて、堪能できたし、汚れた服を買い替えに行きますか。

ー終ー

朗読動画『染み出す赤と、灰色の空』

動画時間:約7分半

あとがき

魔法が使えたら素敵ですよね。

もし魔法が使えるなら、どんな魔法を使いたいですか?

治癒? 瞬間移動? 勝手に家事をやってくれるような魔法?

魔法とは違いますが、漫画「ハンターハンター」のクラピカの念能力で、骨折も完治させるやつ。あれ、ほしいなって思います。私、怪我が多いので^^;

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