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【ニッポニアニッポン】トキに執着した少年の歪んだ行動

こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、『ニッポニアニッポン』です。

「ニッポニアニッポン」、トキの学名です。

以下ネタバレ注意です!

タイトル:ニッポニアニッポン
著者:阿部和重

あらすじ

名前に「トキ」の一字を持つ「鴇谷(とうや)春生」は、高校を中退し地元・山形を離れ東京で一人暮らしをしていた。

トキに対して異常な執着心を見せ、佐渡島にあるトキの保護センターにいるトキに自身を投影し、また、トキをダシにして人間や国を猛烈に批判する。

そして、ついにはトキを殺すことを決意し、佐渡島に向かうのだったーー。

感想

とても面白かった! トキの歴史や日中(日本と中国)間のこと、佐渡島のことなどが詳細に書かれていて、詳しくなくても楽しめるし、読めば詳しくなれます。

その深い内容が、春生のトキに対する執着心や、最終的に殺すと決意するまでに至る流れにリアルさをもたらしていて、ストーリーの中に引きずり込まれあっという間に読了です。

トキに執着する少年が事件を起こす、というストーリーですが、もちろんそれだけではありません。

まず、春生の性格が歪みまくっていて面白い。ただの、中退して引きこもりの少年……ではなく、自身の妄想を現実に置き換えてしまうところや、好きな子にストーカーをして警察沙汰になってしまうところなど、性格に難がありすぎます。

それでいて、トキ密殺のための用意は周到で、スタンガンを通り魔的に試してみたり、警備員と対峙したときに備えて身体を鍛えたりなど、目的達成のための努力や準備は怠りません。

共感はできないけど、春生の行動や思考からは目が離せない。彼が次にどんな行動にでるのか、どんな行動をしたのかなどが気になってしまうのも、読者が作品に惹きつけられる理由でしょう。

「春生」という主人公が際立っているのも魅力の一つですが、「トキ」について考えさせられるのも面白いところです。

「トキ」について、といいますか、「動植物の保護」について、ですね。

人間がトキを絶滅に追いやったのに、今度は「繁殖」させようと自由に飛び回れない檻の中で「保護」という名目で囲ってしまう。

また、「保護」という名目で生き残っていた野生のトキを捕まえ、同じく檻の中に入れてしまう。自由に飛び回っていたのに、突然自由を奪われたら、極度のストレスに陥ってしまう。それは、トキに限った話ではなく、命あるものすべてに共通することでしょう。

「保護」のはずが、それによって「さらに絶滅へと追いやって」しまう。人間がこの地球での一番の存在かのように、エゴイズムを振りかざし、他の生物を好き勝手に扱う。

自然の中で気高く生きている生物に、果たして「保護」は必要なのか? それは、いま絶滅の危機に瀕しているすべての生物に対して言えるのではないだろうか?

人間が「自然」に手を出すことの意味を、もっと考えるべきなのかもしれない……。

深く考えさせられる作品です。気になった方は、ぜひ読んでみてください。