こんにちは、松波慶次です。
2部構成の著作『結ばれる席』『結ばれるための斥』の小説と朗読動画を載せています。
ホラー×ショートストーリーです。
『結ばれる席』→『結ばれるための斥』の順番でぜひお楽しみください!
あらすじ
「4時44分ちょうどに、好きな人の席に座るとその人と結ばれる」
そんな噂を信じていた私は、噂通り好きな人の席に座る。
でも次の日、相手は死んでしまった!
どうして? 私のせいじゃないってことを立証したい!
もう一度噂を試してみようーー。
噂編『結ばれる席』と真相編『結ばれるための斥』の2部構成
小説『結ばれる席』第1部:噂編
文字数:約2600字
四時四十四分ちょうどに、好きな人の席に座るとその人と結ばれる。
そんな噂が、私の学校にあった。
中学生という噂話が好きな年代だからか、みんな面白可笑しく話してはいたけど、実際に試す人はいなかった。そんなものただの噂だと割り切っているから。流石に、信じている人の方が少ない。
その噂を信じている少数派に、私はいる。だから放課後、誰もいなくなった教室に戻り、大好きな市川蓮くんの席の横に立っているのだ。
時刻は四時四十一分。スマートフォンで確認しているから、間違いはない。誰かが来る気配もないから、慌てなくてもいい。
蓮くんの人気は高い。私みたいな地味な子は、女子たちの蓮くん争奪戦の中にも入れない。たかが噂、と捨て置けない。縋りたいのだ、一縷の望みに。
いつの間にか、四時四十三分になっていた。深呼吸をする。吸って吐いてを繰り返していると、時計の表示が四十四分になった。
一瞬の遅れもないように、すぐさま蓮くんの席に座る。心の中で願う。蓮くんと、どうか付き合えますように。明日、告白されますように。
明日告白、だなんて、願いばかりが逸ってしまった。心臓の鼓動がうるさい。緊張したままゆっくりと席を立ち、教室を出る。
改めて誰もいないことを確認して安堵した。あの噂を試しているだけでも恥ずかしいのに、相手が蓮くんだと知られたら、女子たちからいじめの標的にされる可能性もある。
そわそわと落ち着かない気持ちのまま、家路についた。
次の日。蓮くんの席は朝のホームルームが始まっても空席のままで、どうしたのだろうかと心配になっていると、教壇に立った先生が深刻な顔で口を開いた。
「皆さんに、悲しいお知らせがあります。昨日、市川蓮くんが駅の階段から落ちて……亡くなりました」
落ちて、から、亡くなりました、までの五秒にも満たない間が、数分間に感じるほど、重い間だった。
先生が口を閉じると、元々静かだった教室はついに音をなくした。深い静寂が広がる。
「……嘘だろ?」
静寂を破って、誰かが発した驚愕。それを皮切りに、教室はざわつきだした。泣き、叫び、頭を抱え、まさに、阿鼻叫喚。
私は一人、あほみたいに口を開けたまま、昨日自分がしたことを思い返していた。
四時四十四分、大好きな蓮くんと結ばれたくて、蓮くんの席に座った。
好きな人と、結ばれるための、噂。それを実行した。
……何か、やり方を間違えた?
「陽菜、大丈夫?」
私が蓮くんを好きなことを知っている友達が、心配そうに肩を揺すってきた。きっと、蓮くんが死んだという事実を聞いて、ショックを受けていると思ったのだろう。確かに、ショックは受けている。でもそれ以上に、昨日の自分がしたことを考えてしまう。
私が何かを間違えて、蓮くんを殺してしまったのではないか?
その日は、生徒が授業を受けられる状態ではないと判断され、ホームルームが終わると家に帰された。
蓮くんの死から数日後、やっと教室も平穏を取り戻してきた。蓮くんのいた席には花が置かれ、クラスメイトは時折、悲哀に満ちた瞳でその席を見つめる。
その日の放課後。またしても私は、誰もいなくなった教室に戻っていた。
大石武くんの席の横に立つ。大石くんは、私が二番目に好きな人。
私がここにいる理由。それは、私があの噂の実行方法を間違えたんじゃないってことを、立証するため。そうでないと、私が蓮くんを殺したみたいで、気分が悪い。
噂は再度確認した。四時四十四分ちょうどに、好きな人の席に座る。そうすれば、好きな人と結ばれる。私が知っていて、試したのと全く同じ。
蓮くんが死んだのは、たまたま。今度は、そうはならない。
四時四十四分。すかさず座る。どうか、大石くんと付き合えますように。そして、大石くんが、死にませんように。
ひとしきり願ったあと、立ち上がった。
大丈夫。やり方は間違っていない。最悪、大石くんと付き合えなくても、死ぬなんてありえない。
大丈夫、大丈夫……。
次の日。先生から聞かされたのは、大石くんの訃報だった。
死因は、川で溺死。
大丈夫じゃ、なかったーー。
まるで、私が死神みたいじゃない。ありえない。
あの噂は、実は人を殺すための噂なの?
四時四十四分ちょうどに、殺したいやつの席に座れば、そいつが死ぬとか?
私が知っている噂と真逆じゃない! これじゃあ、好きな人を殺していくだけ!
だけど、このまま終わらせたら、私が殺したみたいで嫌。私のせいじゃないってことを、立証しないと。そのために、あと一回。あと一回だけ、試したい。
数日後の放課後。四時四十分。東雲仁くんの席。横に立ち、机を見下ろす。三番目に、好きな人。これで東雲くんが死んだら、私は噂を変えてやる。殺したいやつを殺せる方法として、流布するんだ。そうでないと、好きな人が死んでしまう悲しい結末になる。
四十二分。深呼吸する。手の平にじんわりと汗が染み出す。
四十三分。荒くなってきた呼吸を落ち着かせようと、胸を押さえる。
四十四分。胸を押さえたまま、席に座る。
東雲くん、お願い死なないで。私を死神にさせないで。生きて、生きて、生きて!
気が付けば、目を瞑り両手を神に祈るように組んでいた。
しばらくその格好のまま願い続け、固く組んでいた手が痛くなってきたところで力を抜き、立ち上がる。
学校を出て、家路につきながら、またしても願っていた。
東雲くん、死なないでーー。
「陽菜さん、実はずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください!」
次の日、学校に来て東雲くんがいることにほっと胸を撫で下ろしていると、東雲くんが空き教室に誘ってきた。
何かと思ってついて行ったら、突然告白され、驚きと恥ずかしさで硬直してしまった。
「陽菜さん?」
小首を傾げながら私の顔を覗き込んでくる東雲くんがかっこよくて、熱い頬を両手で冷やしながら首を縦に振る。
「は、はいっ!」
東雲くんは私の返事を聞いて満面の笑みを浮かべる。
もうすぐホームルームが始まることに気付くと、帰り一緒に帰ろう、と嬉しいセリフを残しながら空き教室を出ていった。
くらくらと蕩けそうな頭で考えた。
もしかしたらあの噂は、ただの「好きな人」じゃなくて、「運命の人」と結ばれるものではないか。
だから、蓮くんも、大石くんも、私と結ばれなかった。私の運命の人じゃなかったから。死んじゃうのは、予想外だけど。
東雲くんは、生きてる。東雲くんは、私の「運命の人」なんだ。
小説『結ばれるための斥』第2部:真相編
文字数:約1000字
一人目は、蓮か。
あいつかっこいいもんな。女子からの人気も高いし。だからといって、陽菜ちゃんに惚れてもらうなんて、許されることじゃない。
陽菜ちゃんは俺の。お前にはやらん。
陽菜ちゃんは悲しむかな? 蓮が死んだら。だって、好きな人なんだもんな。大丈夫。俺がいるから。蓮が死んでも、俺が陽菜ちゃんのそばにいるから。
蓮を殺すのは容易い。あいつは電車通学だから、駅まであとをつけて、下り階段に差し掛かったところで後ろからポーンと押すだけ。
俺はツイてる。ちょうど駅には誰もいない。イヤホンをしている蓮は後ろを歩く俺の存在に気付いていない。
さようなら、蓮。お前はかっこいいくせに嫌味もなく、いいやつだったよ。だけど、陽菜ちゃんの心を奪った罰だ。
背中を押す。宙に浮く身体。すぐさま段差に叩き付けられ、どんぐりのように転がり落ちていく。点々と赤黒い液体が零れ出て、一段一段装飾していき、一つの作品を手掛けている気分になった。
一番下まで転がり、停止する。腕も、脚も、首も、てんでバラバラに向いていて、糸の切れた操り人形みたいで面白かった。
陽菜ちゃん、次は武で試すのか。一番、蓮。二番、武。意外と面食いか? まぁ、あいつらは性格もいいしな。陽菜ちゃんらしいセンスではある。
だけど、俺が一番じゃないのは、気に入らない。男を見る目は、皆無だな。
武の通学路には、橋がある。下には川が流れ、高さは十メートルほど。もちろん、今日もその橋を渡って帰っている。
橋の欄干は、そこまで高くない。武を欄干に押し付け、脚を掴んで持ち上げれば、小石を落とすように容易く、武の身体を橋の下に落とせた。
水飛沫と豪快な音を立てて武の身体が水面に沈む。少しして浮き上がってきた背中を確認し、笑みが零れた。あの体勢なら、きっと水を飲んで死ぬだろう。
もし意識があったら、あとを追いかけて溺れさせようと思っていたから、手間が省けて良かった。
流れていく武の身体を見送って、鼻歌を歌いながら家に帰る。
陽菜ちゃん、やっと俺なのか。俺は、三番目か。気に入らないけど、まぁいいだろう。やっと俺だけの陽菜ちゃんになるんだから。
明日、告白しよう。絶対に付き合える。あぁ、嬉しくて今晩寝られるかな?
陽菜ちゃんと付き合えた。嬉しい。
だけど、思うんだ。今後、陽菜ちゃんが他の男に目移りしたらどうしよう?
蓮や武みたいな、いい男はたくさんいる。
万が一陽菜ちゃんが、俺という男がありながら別の男を、またしても好きになることがあったら?
……考えたんだけど、陽菜ちゃんを殺しちゃえば、永遠に俺だけのものになるよね?
朗読動画『結ばれる席/結ばれるための斥』
動画時間:約14分半
あとがき
デジタル時計をふと見たときに「4:44」だとなんだか「うわぁ」となります。やはり「4」は不吉な数字だと感じており、そしてそれがゾロ目だと余計に不吉度が増す、という思いがあるのでしょうか。
はっきりと「○○だから」といえませんが、「なんか嫌だ」という気持ちにさせられます。
一方で、好きな数字や誕生日などの数字を見かけると、「お!」となんだか嬉しくなる。
「4(し)」=「死」と日本人が勝手に連想しているだけなのに忌み嫌われる「4」……数字に罪はないのに、なんかかわいそうですね。
最後までご覧いただきありがとうございました! ぜひほかの著作もご覧ください(^^)