こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、『むらさきのスカートの女』です。
以下ネタバレ注意です!
タイトル:むらさきのスカートの女
著者:今村夏子
あらすじ
”私”は、「むらさきのスカートの女」と友達になりたかった。だから、仕事を探す彼女に”私”が働いている職場へ来るよう間接的に誘導した。
地味だった彼女は、所長やチーフに気に入られ、仕事も頑張り、次第に人が変わったようになっていった。
話しかけるタイミングを逃し続けた”私”は、あることでやっと話しかけることに成功するがーー。
感想
単行本で読んだのですが、思っていたよりも薄く、45分ほどで読み終わることができました。初読み作家さんでしたが、ストーリーの主人公である”私”の一人称で進む読みやすい文体は、さくさくとページを捲らせます。
タイトルと表紙絵から、勝手にホラー小説だと思っていましたが、そうではありませんでした。しかし、ある意味ホラーのように怖かったです。
その怖さは、”私”の異常行動。
「むらさきのスカートの女」こと、日野と友達になりたいと思った”私”、権藤は、ストーカーのように日野の行動を観察します。
クリームパンをいつもの公園のベンチで食べること、職を探していること、住んでいるアパートのこと、子供たちから遊びの標的にされていること……。
職を探しているなら、私と同じ職場で働けばいい。そうすれば友達になれる(話しかけられる)。ということで、求人雑誌を日野の目につくように置き、そのときを待ちます。
この時点で、「いやいや、話しかければいいじゃん!」と思ってしまいますが、それが権藤の気味の悪いところ。
決して話しかけない。話しかけたいと思っても、タイミングが掴めず回りくどいやり方で自分の存在をアピールする。
仕事が休みの日にまで、日野の行動を知るために出勤しようとしたり、不倫の現場を観察したりするのは、ある意味尊敬の念を抱きますね。
そこまでやる気力があるなら、話しかけることくらい簡単そうなのに……。
さて、権藤のストーキング行為も恐ろしいですが、日野もちゃんと恐ろしい、というかおかしい。
職場で周りから気に入られるまでは良かったのですが、その後職場の上司にあたる所長と不倫。仲が良かったチーフたちとも険悪な仲になり、人が変わったように行動が派手になります。
新しい自分を見つけたのか、それとも、地味な格好で隠れていた本性が露わになっただけなのか。
私は、本性が露わになっただけのような気がします。なぜなら、ストーリーの最後。不倫相手の所長と揉め、所長がアパートの二階から転落した際、動転する日野を助けたのは権藤でした。
権藤は、日野に「逃げろ」と言います。詳しい逃げ道や、自分が駅のコインロッカーに置いておいた荷物の一部を持っていくことなどを示唆しました。
あとから日野を追いかけ、一緒に逃走するつもりだった権藤。しかし、日野は権藤が示唆したとおりの行動をとらず、権藤の荷物をすべて持ってそのまま行方をくらましました。
すべては権藤のエゴによる行動でしたが、そのエゴを日野はあっさりと裏切ったのです。ここが、私が日野のことを「本性が露わになっただけ」と推測した理由です。
しかし、環境が人の性格を変えることはあります。果たして日野の場合はどちらだったのか。
何はともあれ、”異常”な作品でした。
「むらさきのスカートの女」と「黄色いカーディガンの女」を見たら、この作品を思い出しそうです。
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