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【歴史】蝮~摩訶不思議戦国アドベンチャー④~

こんにちは、松波慶次です。

小説投稿サイト「エブリスタ」で短編で連載していたコメディ小説「摩訶不思議戦国アドベンチャー」④です。

私は、戦国時代だと斎藤道三が一番好きです。
野心溢れる行動……下剋上が素晴らしい!

※執筆時期は1、2年前くらいだと思います

この男、斎藤道三は悩んでいた。
稲葉山城の一室で、胡坐をかき、苦痛に歪んだ顔を浮かべながら、何もない宙を見つめている。

「父上、入りまする」

道三の愛しの娘、帰蝶が部屋に入ってきた。帰蝶は、のちの濃姫。信長に嫁ぐことになる。

「帰蝶か、急に呼び立てて悪かったな」
「いえ、別に。それより、どうかなさいましたか? お顔色があまりよろしくない」

帰蝶は、自分を呼んだ道三が深刻な顔をしているのに気付いたが、豪胆な娘は眉一つ動かさず道三を見つめるだけである。
見つめられた道三は、宙から帰蝶へ視線を移すと、弱りきった犬のように情けない声を上げた。

「なぁ、俺って知名度低い?」
「知名度、ですか?」
「俺って、蝮=斎藤道三って伝わると思ってたんだけど、だいたいの人がそれで伝わらないんだよ。斎藤道三って言うと、誰? 蝮だよって言うと、だから誰? みたいな」

いつも余裕ぶっこいてる道三にしては珍しく、取り乱した。娘の前だからというのもあるだろうが、女子(おなご)のように両手で顔を覆い嘆いている姿を見るのは、いくら帰蝶でもきついものがあるだろう。
しかし帰蝶は、冷静であった。それどころか、深い溜め息を吐き、頭が痛いとばかりにこめかみを押さえる。

「父上。確かにあなたは知名度は低い方になるでしょう。そりゃあ、織田信長や豊臣秀吉、人気武将である真田幸村や伊達政宗と比べたら、塵です、塵」
「ち、塵だとっ!? 俺のずいぶんあとに生まれた小童どもより、俺の方が劣っているというのか?」
「あくまで知名度です、父上」

帰蝶は一度大きく息を吸い、子供を諭すように、それでいて有無を言わせぬ口調で話し出した。

「考えてもみてください。父上は何をしましたか? 下剋上の先駆者でありますが、それはただの裏切り行為。主君であった土岐頼芸(ときよりよし)殿を殺し、国を奪いました。それは戦国だから許されること。世間一般の考えでは、父上が行なったのは悪行ですよ。対して、真田幸村は最後まで豊臣に忠を尽くした義将。日本一の兵(ひのもといちのつわもの)という大仰な誉れもあります。伊達政宗は、まず右目がない。そこでキャラが立っているのに、南蛮かぶれのハイカラ。伊達男なる言葉も生み出しました。どこまでも天下を狙う野心家な部分も、人気が高いのでしょう」
「待って、野心家だったら俺も同じじゃん。天下狙ってたし」
「それ以外には?」
「……うっ!」

帰蝶の問いに答えられない。道三はまたしても苦痛に顔を歪ませた。

「桜が好きだとか、名前を多く変えたとか、そんなの、知名度の高い人気武将からみたら屑です、屑。もっと世間一般の皆さんの羨望の的になるような、素晴らしい功績を残すか、実はおねぇだったとか、キャラを立たせとけば良かったですね」
「そうか、俺は塵で屑か……」

落胆した。両肩が床に着くのではないかと心配になるくらい肩を落とした道三は、そのまま俯き静止する。
帰蝶はそんな道三を憐れみのこもった目で見ると、こほんと一つ、咳ばらいをした。

「でも、私は父上の娘で幸せですよ。私にとって父上は、一番大好きな武将ですから」

そう淡々と話すと、お辞儀をして部屋から出ていった。
道三が顔を上げたときには、すでに帰蝶の姿はない。しかし、娘からの言葉は、いつまでも道三の心に残り、冷えた心を温めてくれた。

「帰蝶にとって一番なら、それでいっか」

誰もいなくなった部屋で、道三の嬉しそうな声が響いた。

あとがき

道三と帰蝶は、似た者同士といいますか、さすが親子。
芯の強いところは同じですよね。

道三の知名度の低さに、私はがっくりしています。
「道三が好き」といって伝わるのは、たいていおじさんだけ(笑)

それを聞いたおじさんたちは「渋いねぇ」「道三かぁ」と笑ってくれます。
あとは「珍しいね」とも言われますね(笑)

だって、道三かっこいいんだもん(*^^*)