熊が出る|ちょっとした探検のはずだったのに……【ホラー短編】

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こんにちは、松波慶次です。

著作『熊が出る』の小説と朗読動画を載せています。

ホラー×ショートストーリーです。

ぜひお楽しみください!

目次

あらすじ

地元にある洞窟には「熊が出る」という噂があった。

危ないから近寄るなといわれていた私だったが、「本当に熊がいるのか?」確かめるために友達と3人で行ってみることに。

しかしそこにいたのは……。

小説『熊が出る』

文字数:約2600字

私が住んでいた町は、いわゆる「田舎」だ。
田畑が広がり、小川が流れ、都会の雑踏なんてテレビの中だけの話だった。
そんな田舎生活も、当時小学三年生だった私にとっては快適なもので、友達と山の中をかけっこしたり、小川で水遊びをしたり、遊びには困らなかった。
ただ一つ、親や先生から口酸っぱく言われていたことがある。水車小屋の山道の先には行くな、というものだった。
私たちの遊びスポットだった水車小屋は、その名の通り水車があって、水車があるからもちろん小川もある。水遊びもできるし、おたまじゃくしや魚もいるから、捕まえて遊ぶこともできた。
水車小屋のすぐ裏は山になっていて、その山道を進んでいくと、暗い洞窟みたいなのがある。人工的なものなのか、自然にできたものなのかはわからないけど、そこに熊が住み着いているから、山道の先には行ってはいけないということだ。
私を含め、子供はみんなその言いつけを守り、水車小屋の山道の先に行くことはなかった。熊が出ると言われたら恐怖しかないからだ。

そんなある日、学校帰りに友達の和也くんと美雪ちゃんと水車小屋で遊んでいたときのこと。
その日はとても暑くて、三人で小川に入り、照り付ける太陽によって少しだけ生温くなった清流で身体の熱を冷ましていた。

「なぁ、熊って夏も出んのかな?」

最近流行っているアニメの話をしていたら、和也くんが唐突に話を変えてきた。
私と美雪ちゃんは別に気にする素振りもなく、顎に指を当ててうーんと考える。

「冬とか、冬眠する前に食べ物を探すとか聞くけどね。でも、夏もご飯は食べるから、出るんじゃない?」

美雪ちゃんの言う通り、夏だからって熊が活動しない理由にはならないと思う。食べ物は食べるんだし、夏バテでもない限り山の中をのそのそ歩いているんじゃないか。

「なんでそんなこと聞くの?」

私の疑問に、和也くんは悪戯っぽく笑うと、小川から出て濡れた服を絞った。

「いやさ、暑いから、洞窟行ってみたいなーって思って」
「洞窟って、この先の?」
「そうそう」

和也くんの思いがけない言葉に、和也くんに続いて小川を出た私たちも服を絞りながら顔を見合わせた。

「危ないよ、熊が出るよ!」
「そうだよ! 食べられたらどうするの?」
「だってよ、洞窟って涼しいんだろうし、熊が出る出るって言われてたって、実際回覧板で熊の目撃情報も、襲われたとかって話もないんだぜ? もしかしたら、洞窟にはお宝があって、それを盗られないように大人が嘘ついてるだけかもしれないし。確かめてみたいじゃん?」

和也くんの言うことは、最もだった。確かに、熊を実際に見たという話は聞かないし、水車小屋周辺に限らず、熊に襲われたという話も聞かない。
もし、熊の話は嘘で、和也くんの言うように洞窟にお宝があるのだとしたら、それを探すことは私たちにとって冒険で、好奇心を突き動かすには十分な理由だった。

「い、行ってみようか?」

どうやら美雪ちゃんも同じことを考えていたみたいで、抑えきれない興奮のせいか頬を紅潮させながら鼻息荒く聞いてくる。

「い、行ってみよう!」

私が応えると、和也くんもガッツポーズを振り上げた。
さっそく、水車小屋の山道を洞窟に向かって進む。道は一本道だから、迷うことも、洞窟を探し出せないこともないだろう。
無言でも、歩くスピードと一歩一歩を踏み込む強さで三人とも興奮していることが伝わってきた。
しばらく歩くと、辺りは木々に覆われてきて薄暗くなり、遮られた陽のせいで少し肌寒くなった。

「まだかな? 洞窟」

美雪ちゃんが疲れた声で誰にともなく問いかける。
私も疲れてきていて、一向に現れない洞窟に若干焦りを覚えていた。いや、焦りというより、恐怖。熊が出るかもしれない。道が暗くなってきたから、お化けが出るかもしれない。実は変なところに迷い込んでしまったのかもしれない。考えうる恐怖が頭を支配する。

先頭を歩いていた和也くんが足を止めた。

「あったぞ、洞窟」

その言葉に恐怖が打ち消されるかと思いきや、美雪ちゃんとともに和也くんの隣に並んで見た洞窟は、恐怖を増長させるものだった。
長く続く山道が二手に分かれている。一本は、そのまま真っすぐ伸びて山奥へと続いていて、もう一本は、草に覆われて見えづらいけど左に伸び、その先に縦二メートル、横一メートルくらいの大きさの洞窟があった。
中はもちろん真っ暗で何も見えず、そよ風が吹くだけで呻き声のような音が聞こえてくる。

「ちょっと、怖いね」

私の本心に美雪ちゃんは頷いて同意したけど、和也くんはたじろぎながらも男を見せようとしているのか、洞窟に向かって進んでいく。
私たちも、恐怖と戦いながら和也くんに後れを取らないように続く。
草をかき分け、洞窟の入り口に立つと、得体の知れない恐怖が私たちを包み込んだ。
それは、熊が出るとか、そういう現実的な恐怖ではなく、つま先から這い登ってくるような、不気味さだった。

「行くぞ」

和也くんも怖いみたいで、声が震えていた。一歩を踏み出す。
洞窟は真っ暗。陽の光は入り口までしか届いていない。急遽洞窟探検が決まったから、懐中電灯なんて誰も持ってきていない。
洞窟の中に目を凝らす。
……何か、いる。
それは徐々に私たちの方に向かってきているようで、擦り歩く音が聞こえる。
示し合わせたように、私たちは息を呑み、ゆっくりと後ずさる。熊かもしれない。そうだとすれば、背中を見せて走って逃げることは危険だと聞いた。向き合ったまま、ゆっくりと後ずさることが正解らしい。
洞窟から遠ざかりながら、向かってくる何かからは目を離さない。
その何かが、洞窟の入り口まで出てきたーー。

そのあとのことは、あまり覚えていない。私たちは叫びながらがむしゃらに山道を下り、気付いたら家にいた。
どうしたのその顔? とお母さんから心配されたけど、喋る気力も、食欲も湧かなかった。そのまま布団にくるまり、記憶からあの光景を排除するのに必死になった。
洞窟から出てきたもの、それは……。
四足歩行で全裸の、白い肌の男の人。ただ、人間の風貌ではなく、頭は脳みその形が分かるぐらいに皮膚が薄くて、鋭い牙も生えていた。
そして、その口に咥えていたものは、頭蓋骨だった。
あれがなんだったのか。頭蓋骨が人間のものだったのか。そんなことは分からない。
ただ、あの光景を私の記憶から消すことは、二十年経ったいまでも、できていない。

朗読動画『熊が出る』

動画時間:約10分

あとがき

熊って、ただ見る分にはかわいいですが、実際に出会いたくないですよね。腕力も強い、爪も牙も鋭い、木登りも泳ぎもできて、走るスピードも人間より速い……どこへ逃げても追いつかれちゃいます。

熊のすごさは、『シャトゥーン』を読んで思い知りました。マジで地上で最強の動物なんじゃないか。

最近では、市街地にまでよく熊が現れるようになっているので、登山や山間での仕事、観光以外でも、気を付けないとですね。

最後までご覧いただきありがとうございました! ぜひほかの著作もご覧ください(^^)

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