記念の告白|娘の誘拐犯を監禁・拷問する男に向けられた告白とは?

こんにちは、松波慶次です。

サスペンス×ショートストーリー『記念の告白』です。

音声で楽しみたい方は、朗読動画も一緒に載せているのでそちらをご覧ください!

目次

あらすじ

誘拐された娘の居場所を吐かせるため、犯人である男を監禁する俺。

男を拷問していると、ある「記念」に告白してくれた。

その内容はーー。

小説『記念の告白』

文字数:約1800文字

暗い廊下。憂鬱な気持ち。いつの間にか外は真っ暗。あれから一時間が経った。そろそろ、あの部屋へ向かわなければ。
座り込んだ俺の脇に、無造作に置いた鉄鎚と大きな釘が何十本も入ったアルミケースがある。
鉄鎚にはところどころ赤黒い染みが付き、それがまた一層、俺の気持ちを沈ませたが、やるしかない。
萎む心を奮起させ、鉄鎚とアルミケースを手に取り、立ち上がる。廊下の奥、鍵付きのドアを開け、中に入った。

電気を点けると、部屋の真ん中にある椅子に座らされた男の姿が、視界に映り込んだ。
男の両手は後ろ手に、椅子に縛り付けてある。両足も、裸足のまま椅子の脚にそれぞれ縛ってあって、身動きは取れない。
苦痛に歪む醜い顔を見たくなくて、頭から首にかけてすっぽりと布袋を被せてあるから、いま見た段階では、生きているのか死んでいるのか分からない。
男に近付き、布袋を乱暴に剥ぎ取る。男は、瞼越しに突如眩しくなった視界に顔を顰め、瞬きを何度か繰り返したあと俺を見た。

「あ、おはようございます」

にこやかに笑う顔を、思い切りぶん殴った。
二十代半ばほどの年齢だが、童顔であるその顔はにこやかな表情を崩さないまま、俺を見据えた。

「朝の挨拶、パンチ効いてますね。あ、いまのジョークのつもりじゃないです」
「黙れ」

もう一発殴りたいのを堪え、アルミケースから釘を一本取り出す。鉄鎚を構え、男の足の甲に釘を押し付けた。

「言え。俺の娘はどこにいる?」
「娘さん、一歳でしたっけ? 一人で歩ける年齢じゃないですよねー」

釘を打ち付けた。鉄鎚を思い切り振り被り、釘が床に達するまで、何度も、何度も。
男は一瞬だけ身体を跳ねさせたが、その表情は崩れない。
この男は俺の娘を誘拐した。娘の安否は分からない。こいつだけがのこのこと俺の前に現れ、まるでゲームを楽しむかのように拷問を受けている。
俺の方が、参ってしまいそうだ。拷問なんて、俺の人生には関係ないものだと思っていたのに。

「頼む、教えてくれ。もう、こんなことしたくないんだ」

もう一本の釘を、もう片方の足に打ち込む。
若干涙声になってしまった。こんなやつにこんな情けない面を見せるのは悔しいが、手に残る感触、血の匂い、男の涼しい顔を見ていると、気が狂いそうだった。

「九十八」
「え?」

妙な数字を呟いたあと、男は黙った。その顔は、いまにも口笛を吹きそうなほど楽しそうだった。
男に次の言葉を発する気配がないから、次の釘を打ち込む。今度はふくらはぎに。

「九十九」
「……そんな意味不明な数字を言ってないで、娘の居場所を吐け!」

脛に、釘を打ち込む。何か硬いものに釘が当たる感触があった。骨だろうか。
そんなことを考えていると、男は、高らかに笑い出した。

「百!」
「……なんのカウントダウンだ?」
「釘の数ですよ。ちょうど、いまので百本目」

男は脛に突き刺さった釘に目をやる。赤い液体が脛を伝って男の足首まで流れてきていた。

「百本記念に、教えてあげますよ」
「え?」

待ち望んでいたことなのに、男の言葉が瞬時に理解できず、間抜けな声を出してしまった。
頭が男の言葉を理解するのに数秒。やっと理解したときには男の肩を両手で力強く揺さぶっていた。

「どこだ! 娘はどこにいるんだ!?」
「僕の胃の中です」

またしても、男の言葉が理解できなかった。数秒経っても、すとんと自分の中に落ちてくるものはなかった。
いま、この男は何と言ったんだ?

「人間って、まずいって聞いてたんですけど、まぁ食べられなくはないです。赤ちゃんだったからお肉も柔らかくて、骨付きチキンみたいに食べられましたよ」

いなくなった娘を思い出す。やっとあちこち動き回れるようになって、小さい身体でちょこちょこと家の中を探検していた。ハサミやアイロンとかの危険なものに触れないように注意し、転倒したときにはすぐに抱き起こして、身体に怪我がないか確認したものだ。泣きながら俺の胸に顔を埋めて、小さな手で俺の服を握る。

骨付きチキンみたいに食べられましたよーー。

慟哭が響いた。
突きあげる衝動のまま、釘を一本手に取り、男の額に当てる。大きく鉄鎚を振り上げた。
眩む視界の中で、微笑む男の顔はやけに鮮明だったーー。

「まずいな」

咀嚼途中の肉を、目の前の皿に吐き出す。下品な行為。もはや誰に見られるでもない。
骨付きチキンの方が格段に旨いと思いながら、どうしようもない焦燥感を持て余していた。

ー終ー

朗読動画『記念の告白』

動画時間:約7分

あとがき

不器用ですが、物作りは好きです。トンカチで釘を打ったり木を切ったり。大雑把なもので、数ミリ単位での作業はじれったくなっちゃいますが、自分の手で何かを作り上げる作業は楽しいです。

ただ、意外と材料費がかかるんですよね。木材とか留め具とかもろもろ揃えようとすると、「あれ? 手間とかも考えたら買ったほうがよくね?」とか思ったりして。

DIYには「自分の思ったとおりのものを作れる」メリットはありますけどね。

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