こんにちは、松波慶次です!
「騙し・騙される」系が好きな人におすすめ、『カラスの親指』をご紹介します。
以下ネタバレ注意です!
タイトル:カラスの親指
著者:道尾秀介
目次
あらすじ
武沢は、借金返済のために取り立てを行なった過去を持つ詐欺師だ。そんな武沢が、ある日、自身を詐欺にかけようとした男、テツさんと出会いその人生は変化する。
テツさんと二人で詐欺をし、生活費を稼いでいた武沢だったが、住んでいたアパートが火事になった。理由は、組織の報復かもしれない。武沢は昔、取り立ての仕事をさせられていた組織を解体に追い込んでいた。
恐ろしくなった武沢は、テツさんと別の住居を探し始める。すると、スリをして生活費を稼いでいる少女、「ましろ」と出会う。
ましろは、武沢が借金の取り立てで自殺に追い込んだ女性の娘だったーー。
武沢は組織から無事逃れることができるのか? そして、罪悪感を抱く武沢は、ましろにどう接していくのか?
ラスト、壮大な「ペテン」を見る!!
感想
最近、初読み作家さんが多いです。
道尾秀介さんも初読みでしたが、テンポよく進む文体が気持ちよく、読みやすかったです。ボケとツッコミもストーリーの中に点々と入れ込まれており、つい笑ってしまうような場面もありました。
今作の面白いところは、詐欺と登場人物です。騙し合い系統のストーリーが好きな方は、きっと楽しく読めると思います。
そして、登場人物が個性豊か。武沢とテツさんのコンビは可愛らしいですし、ましろや姉のやしろ、やしろの恋人の貫太郎など、それぞれがちゃんとキャラ立てしているのでバラエティパックを選んだかのよう。
騙しているときはハラハラしますし、それがバレなかったときはホッとします。
内容は、実に緻密に練られています。最初のころに登場したちょっとした話が、全ストーリーに影響を及ぼしていたり、小話かな? と思っていた部分が重要な部分だったり。
伏線回収が素晴らしく、すっきりとした読後感でした。
武沢に報復を考えていた組織が「遊び」だと言い、5人を解放したとき。正直、「このままでは終わらないだろうな」と思ったものです。なぜなら、相手はヤクザ。自分たちをペテンにかけようとした相手をみすみす逃すなんて、そんな優しいはずありませんもの。
殺されるんじゃないか? とか、実は完結せず続編に続くのでは? とか考えたものです。本のページ数的にそこまで残っていなかったので、このあとヤクザが暴走することは無理があるかな? と、思っていたらまさかの「このままでは終わらない」が待っていました。
すべては、テツさんが武沢とましろたちを引き合わせるための「ペテン」だった。武沢とましろたちの気持ちをすっきりさせ、真っ当な人生を歩ませるために。
お人好しそうなテツさんが一番の(いい意味で)黒幕だったんかーい! と内心盛大にツッコミ(笑)
いやー、流石「詐欺師」。見事に騙されました。
そうそう、作中で、「子供は両親揃っていないと」という話があるのですが、その話を後押しするように、「人差し指(お母さん指)だけで小指(赤ちゃん指)と触れ合うのは難しい」ということをテツさんが話していました。
それを読みながら実際にやってみると、確かに難しい。小指がつりそうになります。しかし、「親指(お父さん指)を添えると、触れ合いやすくなる」と話は続き、実際にやってみると容易くなります。
子供には両親がいることが大事。指の触れ合いやすさには何の根拠もないけれど、とても説得力のある、感情を揺さぶられるような表現だと思いました。
離婚を考えている世の子持ち夫婦に聞いて欲しい話だと思います。
まぁ、そんなこんなで、そういう家族の温かさといいますか、胸がほっこりする部分もある、素敵な小説でした。
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