こんにちは、松波慶次です。
ホラー×ショートストーリー『いつでも来てね』の小説と朗読動画を載せています。
朗読動画の”あと声”では、普段はしない著作に関する裏話(『いつでも来てね』のもとのタイトルについて)を話しているので、ぜひそちらもご覧ください!
あらすじ
ブログで日記をつけていた私は、コメントや読者との交流で賑わっているほかのブログが羨ましかった。
私のブログももっとたくさんの人に見てもらいたい。そう思っていたある日、〈いつでも来てね〉というサイトの存在を知る。
どうやら、そのサイトに登録するとたくさんの人に自分のサイトを見てもらえるようになるらしい。
半信半疑で登録してみると、いままでにないくらい多くのコメントが付くようになったーー。
小説『いつでも来てね』
文字数:2100字
3か月前からブログをやっている。内容は、日々の生活。どこに出掛けたとか、何を食べたかとか、とりとめのないことを綴っている。いわば日記だ。
きっかけは、20歳になって何かを始めようと思ったから。日々の思い出を日記につけようと思ったけど、ノートに書くのが面倒だったからブログにした。
ブログを始めた当初は、日記をつけられればそれで満足だった。でも他の人のブログを見ると、読者からのコメントがついていたり、仲良くなった読者の運営するサイトのURLを貼って紹介し、交流を図っていたりして、羨ましく感じた。
私のブログもたくさんの人に来てもらいたくて、他の人のブログに顔を出した。私もブログをやっています、という言葉とともにURLを貼り、積極的にコメントをした。
だけどいまだにコメントがゼロ。閲覧数も全然伸びていかない。
日記としてのブログで、誰かに見せるためではないけど、どうにも歯がゆくて苛立ちを覚えてしまう。
*
そんなある日。
たまたまネットの掲示板で、興味をそそられる言葉を見つけた。
「そのサイトに登録すれば、たくさんの人に自分のサイトを見てもらえるって噂だよ」
「どういうこと?」
「コメント数が増えて、自サイトが賑やかになるみたい」
「なんてサイト?」
「〈いつでも来てね〉ってサイト」
「なんか怪しいなぁ」
私も怪しいとは思いながらも、すぐに〈いつでも来てね〉を検索した。
あっさりとそのサイトはヒットした。多少緊張しながらそのサイトを開く。
きっと、サイト名だろう。いろんな名前がページの縦ど真ん中にずらずらと並んでいた。サイトの説明書きはないけど、名前からしてブログや趣味で運営しているもののようだ。
この〈いつでも来てね〉は、どうやらブログとかを紹介するサイトみたいだ。なんだ、どこにでもこんなサイトはある。
ページを下にスクロールしていくと、登録しますか? という青文字があった。カーソルを合わせると、下線が引かれる。クリックすると私のブログもこのサイトに登録できるのだろう。クリックする。URLを入力してください、と指示が出て、入力画面が表示された。ブログのURLを入力する。エンターキーを押すと、〈いつでも来てね〉の一番上に、私のブログ名が表示された。カーソルを合わせクリックすると、もちろんだけど私のブログに飛ぶ。
「ふふっ」
つい笑ってしまった。こんなありきたりなサイトに登録して、そこまで変わるものなのか、見物だ。ただでさえ、このサイトに登録されているものは大量で、しかも名前のみの記載で、情報が全く載っていないというのに。
*
一週間、何もなかった。閲覧数も増えなければ、コメントもない。
だけど今日、初めてコメントをもらった。
私がジャスミンティーを買ったという日記に対して。
「おいしそうですね」 ゆかり
「私も飲みたいです」 aya
「紅茶お好きなんですね」 hide
他にも3人からコメントをもらった。
嬉しくて、コメントを返す。
「紅茶好きなんです」
明日の日記をつけるのが楽しみだ。
*
今日は、近くに新しくできたカフェに行った。それをブログに書く。そこで食べたチーズケーキとコーヒーの写真も載せた。
「おしゃれですね」 ミサ
「食べたいです」 勇気
「僕も行きたいなぁ」 hide
コメントを返す。
「ぜひ、行ってみてください。おいしかったですよ」
コメント数は10人を超えた。
*
年末が近づいてきたから、スケジュール帳を買った。その写真を撮り、ブログに載せる。
「書きやすそうなスケジュール帳ですね」 あやの
「僕も同じの買っちゃいました」 hide
「持ち歩きやすそうですね」 舜
次々と、コメントが寄せられる。
「男の人がスケジュール帳を持つの、少し珍しいですね!」
コメントを返す。
*
今日は、近くの雑貨屋さんでイルミネーションが点灯していた。綺麗だったから、それを写真に撮り、いつものようにブログに載せる。
「僕もそこ知っています。綺麗ですよね」 hide
「私も、イルミネーション見たいです」 ミサ
「毎日の生活が輝いていそうですね」 はる
一つ一つのコメントを見る。
「近くに住んでいるんですか? ご近所さん?」
コメントを返す。
*
〈いつでも来てね〉に登録して、一か月。
コメントを投稿するのにうんざりしていた。私の日記に対して、投稿することに。
そう、全ては自作自演。結局、〈いつでも来てね〉に登録したからといって閲覧数も、コメント数も増えることはなく、ブログは賑わうことがなかった。
自分を元気付けるためにやり始めた行為だけど、虚しいだけで、楽しくもなんともなかった。
ただ一人、hideという人のコメントは本物だった。その人のコメントにはきちんと返事をして、交流を図ったつもりだ。
しかもその人は、どうやら私の家の近くに住んでいるらしい。私が買ったスケジュール帳と同じものを買っていたし、好意は抱いてくれているみたいだ。
さて、私自身が行なった自作自演の行為をどう収拾つけようか? ぴたっと他のコメントがなくなったら、hideさんだって驚くだろう。
空虚なコメントが並ぶブログを眺めながら考え込んでいると、ピンポーンとドアホンが鳴った。
もう時刻は20時を回っている。一体、誰だろう……?
私は玄関に向かったーー。
朗読動画『いつでも来てね』
動画時間:約7分半
あとがき
学生の頃、某ブログサイトで日常のとりとめのないことや旅行先のことなどを綴っていたことがありました。
そのとき、全く知らない相手でしたが、よくコメントしてくれて、仲良く交流していた方がいました。ふと、当時のブログのことを思い出して、「〇〇さん、元気にしてるかなー」なんて思ったりします。
もう連絡はつきませんが、機会や連絡手段があれば連絡して、ぜひ対面で会って話したいって思うほど、その方とのやりとりは楽しかったですね。あぁ、懐かしいなー。
最後までご覧いただきありがとうございました。ぜひ著書やほかの小説もご覧ください(^^)!