こんにちは、松波慶次です。
久々に阿刀田高氏の小説を読みました。ミステリー短編集『いびつな贈り物』です。
以下ネタバレ注意です!
タイトル:いびつな贈り物
著者:阿刀田高
目次
あらすじ
昔心を寄せていて、現在不倫関係にある幼馴染の不遇に「何かできることはないか」と考える男。そして、「できること」に思い至り実行すると――『いびつな贈り物』。
書斎に絵を飾ったことで、妻は部屋で起こる「異変」を訴えるようになる。どうやら、絵の中の扉から男が出てきているらしい。恐怖よりも好奇心を抱く妻に狂気を感じ、夫は絵を燃やすことにするーー『まるい灰色の扉』。
他4作収録の短編集。
感想
阿刀田高氏の小説はいままでも何冊か読んでいますが、どれも既視感がなく、展開を楽しみに読むことができます。これだけ多くの短編を執筆されているのに似た話がないというのは、すごいことですね。尊敬します。
今作『いびつな贈り物』は、男女が関わるミステリー短編集です。表題作『いびつな贈り物』は、不遇な幼馴染を救うために、財産を一人で相続した幼馴染の兄を殺害します。それで裕福な暮らしになり、苦労せずにすむと思ったら……。
相手の本心は分からない。勝手に推測して勝手に行動したことが、相手をより不幸にすることもある。それが、いかに善意からの行動であったとしても。
『三角の野望』は「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな話で、主人公が意図せず行なった行動が、のちに自身の夢を叶えることになる。収録作の中で唯一爽やかなお話でした。
『かける印の殺意』は、愛する妻の不倫を疑い探偵さながらの調査をしてようやく男の影に辿り着いた夫の話。夫の執念というか、妄想というか、ある意味脱帽です。
『まるい灰色の扉』は、収録作の中では一番好きなお話でした。勝手に動くペンや辞書。本当に絵の中の扉から男が出てきて動かしているのでは? と疑うほど、恐ろしく奇怪な話なのかもと思っていました。
しかし、最後のページ。恐ろしくなりましたね。ホラー的にではなく。妻の妄動なのか、意識的な行動なのか……。
『細長い窓』は、プロポーズの返事を保留にしていた男が脳溢血で倒れたが、もしかしたら男の息子(戸籍上は)に殺されたかもしれない、という考えに至った女が主人公。あのあと、警察に言いに行ったのか、それとも、自らの手で恨みを晴らしてあげようとしたのか、考えてしまいました。
最終話『うつろな視線』は、元部下の女が殺され、誰に殺されたのかをぼんやりと空想する男が主人公。死人に口なし。生きている人間は、自分に不都合となることは例え犯人逮捕に繋がるとしても、口を開かない。
身近に潜む男女のミステリーを堪能したい方は、ぜひ読んでみてください。