白銀真っ白死体探し|視える青年と殺された男がゲレンデを舞台に奔走する

白銀真っ白死体探し|視える青年と殺された男がゲレンデを舞台に奔走する

スポンサーリンク

こんにちは、松波慶次です。

コメディ×サスペンス×ショートストーリー『白銀真っ白死体探し』の小説と朗読動画を載せています。

ゲレンデを舞台にした、”死体探し”の物語です。

目次

あらすじ

濱滝了は、一人で自由気ままにスノーボードをやりにきていた。

楽しく滑っていたが、ずっとあとをつけてくる男がいる。

とうとう無視できなくなって目を合わせると、男が話しかけてきた。

「俺の死体を見つけてほしいんだ」

ゲレンデで突如始まった、”死体捜索”の結末はーー?

小説『白銀真っ白死体探し』

文字数:約8000字

 ボードを履き、傾斜に直角になるように跳ねてコースに踊り出す。すぐさまスピードに乗った。だだっ広いコースを滑っていく。

 コースの端。雪で埋もれた木の幹が盛り上がっていた。近付く。膝を沈め、体勢を低くする。コブに乗った。トップで接地面を蹴り、高く跳ねる。着地。そのままの勢いでゴンドラ乗り場まで滑り下りた。

 ピーカンのスノボー日和だ。ボードを脱ぎ、もう一度ゴンドラに乗って山頂に向かった。

 平日の銀世界スキー場は、まだ朝早いのもあって空いていた。何度も来たことがある大好きなスキー場だ。二十五歳以下は割引が効くから、二十三歳の俺は安く滑れる。

 コースは全部で五つ。特別多くないけど、横幅が広くて滑りの渋滞が生じづらい。それに俺好みのパークもある。

 有休を使って一人気ままに滑りに来た。前日に雪が降った影響で、雪質は申し分ない。パウダーゾーンはひと際ふわふわしているし、圧雪されてるところはほどよく雪が乗っていて転んでも痛くない。これならグラトリも練習しまくれる。

 コンディションは最高。ただ……。

 山頂に着いた。ゴンドラを下りてエゾシカコースへ。ボードを履きながら、ずっと感じていた視線をとうとう無視できなくなって振り返り、ゴーグルを外す。

 鮮明になった世界で見えたのは、黒色のヘルメットを被った、フェイスマスクもウェアも手袋もスキー靴も全て白色の男。ウェアの左脇腹には、大きなトマトを当てられたかのように真っ赤な模様がついていた。ゴーグルは上げていて、つぶらな瞳と目が合う。露出している皮膚が少なくて分かりづらいけど、三十代くらいに見えた。

 逸らしたのは俺だった。一本目を滑ったときからついてきていたのは知っていた。赤い模様が血だってことにも気付いていた。だから無視していたけど、まだついてくるってことは、あいつはきっと――。

「もう。俺のこと視えてるんだから、いい加減諦めてよ」

 男が話しかけてきた。やっぱそうだ。俺が視えることを分かってる。

 できれば関わり合いになりたくない。無視して視えてないフリを続けたいけど、さっき目合っちゃったし無理か。

 ゴーグルをつけると、滑る準備をしているほかの人に不審がられないように男に向かって小さく手招きした。

 広めの場所まで滑り下り、コースの端に座った。ここなら邪魔にならないし、話し声も聞こえないはずだ。男はピタリとついてきていた。俺の隣に腰かける。

「あの、俺について来るの、やめてもらってもいいですか?」

「少し話を聞いてほしいんだ。俺、さっき死んだばかりで、幽霊になるのが初めてなんだけど、だからこそ視える人に会えたのはまたとないチャンスなんだ。ね、お願い!」

 男は拝むように手を合わせて頭を下げる。

 やっぱこの人幽霊だよな。腹から血を流しながら滑る人なんていないし、ボードもスキー板もないのにピタッとついてきてるんだもん。

「……話って何ですか?」

 男はパッと顔を輝かせた。

「俺は篠田勉。君は?」

「俺は、濱滝です。濱滝了」

「了くんね。見てくれれば分かると思うけど、俺、殺されたんだ」

「可能性としては考えてましたけど、本当に殺されたんですか」

 滑っていて木の枝にぶっ刺さった、ってわけじゃなかったか。

「で、殺されたときのショックか分からないけど、俺、自分がどこで死んだか分からないんだよね」

「はぁ」

「だから、俺の死体、見つけてほしいんだ」

「そのうち誰か見つけるんじゃないですか?」

「いや、多分見つからないよ。コース外で殺されたから」

 雪崩の心配や崖、岩、木とかがあって危険だからという理由で、コース以外の滑走は禁止されている。立札があったりロープやネットが張られているはずだが。

「なんでコース外滑ってたんですか」

「俺はルールを守るスキーヤーだから、わざとじゃないよ。おぼろげだけど、確かアイスバーンに乗っちゃったんだ。それで滑って、ロープの外に出ちゃった気がする」

 新雪の下が凍ってて、風や人が滑ることで雪が薄くなったら、ツルツルの氷が表に出てくることもある。それに乗って止まれなかった経験は俺もあった。

「そのコース外がどこだったか分からない、と」

「そうそう。いまは晴れてるけど、また雪が降ったら俺の死体埋もれちゃって、余計分からなくなるでしょ? だから、いまのうちに見つけて、急いで警察に知らせてほしいんだ。犯人逮捕の手がかりが消えてしまう前に」

「えー。事情聴取とかで俺のスノボーやる時間減るじゃないですか。明日仕事だし、気持ち早めに帰ろうとしてるのに」

「頼むよ! 俺の死体の発見と犯人逮捕、それと君のスノボータイムだったら、どっちがより重大か分かるでしょ?」

「なんか反抗したくなる言い方ですね。でもなんで殺されたんですか? 犯人に心当たりとかあります?」

「心当たりがないから早く俺の死体を見つけてもらって、警察に動いてもらいたいんだよ。通り魔的犯行だったら、何か犯人が証拠を残してたとしても雪で探しづらくなっちゃうよ」

 ゲレンデのコース外で通り魔的犯行……すごいシチュエーションだな。

「……分かりましたよ。じゃあパトロールに見つからない程度に、コース外走ってみます」

「ありがとう!」

 篠田さんは目を潤ませた。ちょうど滑り下りてくる人がいなかったからコース外へ入る。木々が生い茂るなか誰も立ち入っていないパウダー状態の雪面を滑る。飛び出た枝を避け、雪で隠れた岩に注意しながら。

「篠田さんも周り見ていてくださいよ」

「もちろんだよ。それにしても、コース外で整備されてないのに滑るの上手いね。慣れてるの?」

「まぁ。褒められたもんじゃないですけど時々コース外滑ってます。誰も滑ってない雪を滑るの気持ちいいし、木を避けながら滑るのもゲームみたいで楽しいし、コブとか跳ねるのも好きなので」

「本当に褒められたもんじゃないね」

 苦笑する篠田さんの声を背に、誰もいないことを確認してコースに戻った。

「前に、コース外から飛び出て人に当たりそうになったことありますし、そもそもコース外走るの悪いことだってのは理解してるんで、自制はしてますけど」

「そりゃそうだよ。雪崩でも起きたら了くんも危ないし、ルールを守って滑ってるほかの人の命も危険にさらすことになる」

「分かってますよ。でも、俺のその経験が篠田さんの死体捜索に役立ってるでしょ?」

「まぁね」

 そのままコースを下った。ボードを脱ぎ、スキーセンターに入る。

「どうしたの?」

「このまま闇雲に探してても、埒が明かないかなって。篠田さん全身真っ白だから、雪と同化して余計に分からないし」

「スキー板もあるよ。白だけど」

「白じゃどっちみち分かりづらいですよ」

「あとは、まだ雪で埋もれてないんだったら俺の血を頼りに」

「それも銀世界の中じゃ分かりづらいでしょ。一旦マップ見ましょう。それで少しでも思い出したりするかもしれませんし」

「そうだね」

 すれ違ったボーダーの男二人がヒソヒソと話し合う。そうだった。篠田さんは視える人にしか視えない。これじゃ俺は大声で独り言を言うただの変人だ。

 リフト券売り場の受付からゲレンデマップを取り、休憩スペースの端のベンチに篠田さんと座ってマップを広げる。

「どうですか? 殺される前に滑ってたコースとか思い出しませんか?」

「うーん。ゴンドラに乗って、オコジョコースかライチョウコースに行った気がする」

「じゃあ次、オコジョコース行ってみましょう」

 ふと、辿り着くには遅すぎる考えが頭をよぎった。

「……篠田さん、何時くらいに殺されたんですか?」

「え? そうだなー。一時間前くらいかなー」

「じゃあ、もしかしたら犯人も、まだこのゲレンデにいるかもしれないってことですよね?」

「あ、そうだね。確かに」

「確かに、じゃないですよ! ゲレンデのスタッフに言って注意喚起してもらわないと! ってか、捜索もパトロールに頼めるじゃないですか!」

「おぉ! その手があったか!」

 マップを畳んでウェアのポケットに入れると、もう一度受付に向かった。客は並んでいない。受付のおばさんにパーテーション越しに声を掛ける。

「あの!」

「はい?」

 マスクをしたおばさんは手元のリフト券に手を添える。俺がリフト券を買いに来たと思ったようだ。

「もしかしたらこのゲレンデに、殺人犯がいるかもしれないんです」

「……は?」

「だから、放送とかで注意喚起したほうがいいと思うんですよ。それか警察に連絡とか」

 そうだ。警察に連絡すればよかったんだ。これもどうしてもっと早く気付かなかったんだろう。

 俺が新たな道を発掘している間、おばさんはずっと冷めた目をしていた。

「……どうして殺人犯がいるって分かるんですか?」

「それは、その……殺された人がいるみたいで、えっと……」

「頑張れ了くん!」

 篠田さんが拳を握りながら応援してくれたけど、上手い言葉が浮かばない。殺された人が幽霊になって俺に話しかけてきたって言っても、絶対に信じてもらえない。

「君、動画配信者か何か? ゲレンデに殺人者がいるって聞いたら受付はどういう反応をするかとかの企画撮影でも

てるの?」

「いえ、そういうわけじゃ……」

「リフト券買わないんなら、とっととどっか行きなさい」

 おばさんはしっしと追い払うように手を振る。

「じゃ、じゃあ! コース外を滑ってる人がいたんです! 危ないから、パトロールを強化したほうがいいんじゃないですか?」

 死体が見つかれば殺人犯の話も信じてもらえるはずだ。咄嗟の案だった。

 でもおばさんには通用しなかった。盛大に溜め息をつきながら首を振る。

「コース外を滑ってる人はよくいるよ。パトロールだってしてるけど、人手不足で全員を取り締まれないの。もし見つけたら君も注意しといてよ」

 話はこれで終わり。フリなのか本当に操作しているのか分からないけど、手元のパソコンをいじりだしたおばさんに小さく礼を言って外に出た。

 これじゃあ警察も俺の話を信じてくれない。新たに閃いた道は通る前に閉ざされた。

「了くん、残念だね」

「大丈夫です。もう乗り掛かった船ですし、ほかを頼れないんだったら俺一人で探します」

 ゴンドラに乗る。タイミングがよく、俺の一人乗りだった。前の席には篠田さんが座ったけど。

「なんか、ごめんね。変なことに巻き込んじゃって」

「いや、気にしないでください。捜索しながらでも一応滑れるし、早く篠田さんの死体を見つけられたら一件落着だし……それに、一番辛いのは篠田さんですよね?」

「え?」

 俺はゴーグルを取ると、きょとんとしている篠田さんを真正面から見据えた。

「だって、篠田さん、さっき死んだんですよ? もう二度と滑れないんですよ? ほかにも楽しいこと、やりたかったことたくさんあったはずなのに……どうしてそんな平然としてられるんですか? 悲しくないんですか?」

 いままでも幽霊は何度も見てきた。どいつも、生きている人間を呪うように憎悪に満ちた顔をして、隙あらば危害を加えようとしていた。俺は自分の身を守るためにすべて無視してきた。

 篠田さんは違った。最初からほかの幽霊のような嫌な気配を感じなかった。むしろ捨てられた犬みたいに放っておけない雰囲気があった。だからあのとき、目を合わせてしまったのかも。

「そうだな……」

 俺の問いへの回答がまとまったのか、篠田さんは腕を組んで口を開いた。

「死んだことは悲しいし、辛い。まだまだ滑りたかったし、結婚もしたかったし、子供も育てたかった。でも、死んじゃったものは仕方ないっていう思いもある。殺されたことは悔しいけど、自分の死体を見つけたら、あとは警察に任せて、とっとと成仏して、輪廻転生して、次の人生を生きたほうが賢明かなって。だから落ち着いてるのかも」

「なんか、達観してますね」

「そうかな? でも、幽霊になっても了くんみたいな人と話せると、生きてるときと同じ感じだなって思うよ。疲労感とか、空腹感とかはないけど……」

 言葉が切れた。篠田さんは頭に手をやって口を半開きにしたまま静止した。

「……そうだ」

「何か思い出したんですか?」

「俺はライチョウコースへ行こうとしてたんだ。そっちのコースにあるレストランで軽食を食べようとして……で、誤ってコース外に入った」

 マップを広げてコースを確認する。ライチョウコースの一番下にレストランがあった。コース外エリアは広い。

「どこらへんか、覚えてますか?」

 マップを見せると、篠田さんはライチョウコースの右側を指差した。

「ここらへん。ゴンドラ下りて、コースの端のほうを滑ったんだ。そしたらそこがアイスバーンになってて、尻もちをついてコース外に転がってった」

「よし! じゃあここに行ってみましょう!」

「それと……」

 緊張した面持ちで言葉を続ける。

「俺、犯人の姿、覚えてる。赤色のオーバーオール。下には黒のウェア。スキーヤーだった。板も赤。帽子とフェイスマスクは黒で、調光レンズ。もちろん顔は見えなかったけど、黒と赤しかなくて印象的だった。木の幹の深い雪にはまって動けなくなってるときにそいつが来て、助けを求めたら包丁で刺されたんだ」

「赤色のオーバーオール……特徴的ですね。あんまいないですもん」

「了くんみたいに上下に分かれてて、しかもありがちな赤やカーキのウェアだったら記憶に残りづらいもんね」

「ありがちですみませんね。それなら、篠田さんの死体を見つけたあと犯人も探しやすそうですね」

「もしかしたら俺の死体のそばにいたりして。ほら、犯人は現場に戻るって言うし」

「そしたら俺と鉢合わせるじゃないですか。篠田さんには悪いけど、俺はまだ死にたくないですよ」

「了くん、まだ若いもんね」

 口では死を受け入れていても、目を細める篠田さんの笑顔はどこか寂しげだった。

「……篠田さん、見つけましょう。そして警察に犯人を捕まえてもらいましょう」

 元気づけるように力強く言うと、篠田さんは頷いた。

「うん。ありがとう」

 ようやく頂上に到着したゴンドラから下りると、ボードを履いてライチョウコースに向かった。篠田さんに先導してもらいコース外に転がったという場所まで来て、コースを区切るロープの先を見る。傾斜のある林が広がり、積もった雪は何かが転がったように抉られている。

「ここだ、ここ!」

「戻ろうとはしなかったんですか?」

「この傾斜を上がるよりも、ひとまず下りちゃって出られそうなところでコースに戻ったほうがいいと思ったんだ」

「まぁそうですよね。この傾斜じゃスキーを履いたままじゃ無理だし、脱いでも大変だ」

 辺りを見回すと誰もいない。

「じゃあ、行きますか」

「クレバスはなさそうだけど、木の枝とか岩とか気を付けてね!」

 ロープをくぐり、篠田さんが滑ったと思われる跡を辿る。少し下ったところで大きな木の側にこんもりとした塊があった。

「あ」

「俺だ!」

 俺たちの声が被った。木から雪が落ちたのか、顔や全身に雪を被り横向きに倒れている篠田さんは、遠目からじゃ人間だと気付かない。

「よかった。無事、俺を見つけられたよ」

「ほんと、よかったですよ。じゃあ警察に――」

 スマートフォンを取り出したとき、少し上のほうからザッと雪を踏む音が聞こえた。

 赤いオーバーオールを来たスキーヤーがいた。手には赤黒く染まった包丁を持っている。

「あ! あいつだよ、あいつが俺を殺したんだよ!」

 篠田さんが叫ぶのと男が向かってくるのは同時だった。林の中を滑って逃げる。

「了くん! あいつまだ追ってきてる! 急いで!」

 後ろを振り返る余裕はなかった。篠田さんの実況を信じて滑走する。

 前方。木と木の間の先が開けていた。ボーダーが通る。コースだ!

 スピードに乗ったまま飛び出した。コースの上からスキーヤーが降りてきて危うくぶつかりそうになった。

「君! コース外走っちゃダメだろ!」

 瞬時に避けたスキーヤーは止まって注意してきた。赤色のウェアに白い十字マーク。ゲレンデのパトロール隊員だった。

 オーバーオールの男も飛び出してきた。俺のすぐそばに着地する。

 考えるより先に足が動いた。男目掛けてボードを百八十度回転させる。エッジ部分が男のすねに当たった。

「いっ!」

 悲鳴を上げた男ともつれあって倒れた。隊員が寄ってくる。

「ちょっと! 君たち何してるの!」

「こ、この人、人殺しなんです!」

「え⁉」

「ほら! そこ! 包丁!」

 雪の上に血のついた包丁が転がっていた。隊員はようやく事態の深刻さを理解したようで、スキー板を足から素早く外すと男をうつ伏せにして腕を背中で捻った。

「いっ……ててててて!」

「大人しくしろ!」

 手際よく男を取り押さえた隊員に感心しながら、ボードを脱いで男のゴーグルとニット帽を外す。露わになった男の顔を見た篠田さんは「知らない人だ」と首を傾げた。

「了くん。悪いんだけど、動機を聞いてくれるかな?」

 俺は頷いた。無線で応援要請をしている隊員にすでに諦めがついたのか、男は雪面に頬をつけて大人しくしていた。

「あの……」

「なんだよ」

「なんで、あの白いウェアの人、殺したんですか?」

 警察でも何でもない俺には答えてくれないかもしれない。ダメ元で聞いてみると、男はぼそりと呟いた。

「コース外を走ってたからだよ」

 答えてくれた! でも……。

「なんで? どういうことですか?」

「……少し前に、俺は気になってた女の子とスキーをやりにこのゲレンデに来たんだ。女の子は初心者で、不安がってたけど俺が半ば強引に誘ってな。そしたら、女の子の目の前にコース外から飛び出してきたやつがいたんだ。女の子は驚いて転んじゃって、手首を捻った……それきりだよ、その子とは。飛び出てきたやつはすみませんって叫んでそのまま下りてったし。あの日以来、コース外を滑るやつが許せなくて、だからコース外に入っていくあの男を見かけて、追いかけて刺した」

「えー。じゃあ俺、本当にたまたま、しかも、好き好んでコース外入ったわけじゃないからただの勘違いで殺されたってこと?」

 自分の不運を嘆く篠田さんに何も言えなかった。

 ほかのパトロール隊員もやってきて、俺たちはセンターのスタッフルームで警察を待つことになった。男は、篠田さんの死体が気になって戻ったこと、俺に死体を見られたのとコース外を走ってることを理由に殺そうとしたことも話した。

 少しして警察が来て、俺は事情聴取のために警察署に行くことになった。被害者が幽霊になって現れたなんて話、できるわけないから、シナリオは考えてあった。コース外に滑り出てしまったら、たまたま死体を発見した。そしたら犯人に殺されそうになった……。

 俺のスノボーデイは、こうして幕を閉じた。

*

「本当にありがとう、了くん。おかげで俺の死体は発見されたし、ついでに犯人も逮捕されたしで、よかったよ」

「いえ、そんな……お礼を言われるほどのことじゃありませんよ。むしろ、なんかすみません」

 事情聴取のあと、警察署の駐車場で篠田さんがははっと笑った。

「なんで了くんが謝るんだよ。謝るのはこっちだよ。結局、全然思う存分滑れなかったでしょ」

「まぁ。でも、また滑りに来るんで、大丈夫です」

「そうだね。そうしなよ。君は生きてるんだから」

「……はい」

「じゃあ、俺は目的を果たせたし、とっとと成仏するよ。生まれ変わってどこかで会ったら、そのときは一緒に滑ろうね」

「そうですね。そのときは」

 篠田さんの身体が透けた。瞬きをする間にいなくなった。

 気配を感じない。俺はふぅっと息を吐いて自分の車に寄りかかった。

「やっぱ謝るのは俺のほうですよ、篠田さん」

 赤いオーバーオールの男。印象的だったから記憶にあったんだ。だから篠田さんから最初に話を聞いたとき、もしやと思った。男から動機を聞いて、確信に変わった。

 男が言っていた、コース外から出てきたやつ。それは俺だ。俺のせいで男に殺意を芽生えさせ、篠田さんは殺された。

 篠田さんが知ったらどう思っただろう。祟られたかな?

 バレなくてよかった。俺は車に乗り込み、エンジンをかけた。

朗読動画『白銀真っ白死体探し』

動画時間:約24分

あとがき

スノーボードやスキーなどのウィンタースポーツが大好きで、冬になるとよく滑りに行っています。スノーボードは、15年以上の経験があります。

その経験の中で、ケガもたくさんしました。骨折、脱臼、擦り傷、靱帯損傷などなど。自分でも、ケガしすぎだろって感じです。

でもその経験のおかげで、「これは折れた」「これは骨折まではいっていない。恐らく靱帯だ」「捻挫だな」とケガの度合いがある程度わかるようになりました。おかげ……と言っていいのか?

「何事も経験」とか言いますが、ケガをしないことが一番です。もし経験してしまったら……せっかくなので活用するしかありません。

そんな私、ウィンタースポーツ関連の記事も別のブログで書いています。もしご興味あればご覧ください。

松波慶次の著書一覧はこちら

松波慶次のほかの無料小説はこちら

スポンサーリンク

白銀真っ白死体探し|視える青年と殺された男がゲレンデを舞台に奔走する

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次