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【八甲田山死の彷徨】命を奪いに来る暴風雪!油断がすべてを狂わせる

こんにちは、松波慶次です!

今回は、夏場に読みたい恐ろしくて寒い小説をご紹介します。その名も『八甲田山死の彷徨』。自然をナメたらいけません。

以下ネタバレ注意です!

タイトル:八甲田山死の彷徨
著者:新田次郎

あらすじ

軍の上層部によって決まった、第5連隊と第31連隊の八甲田山雪中行軍。それは、対ロシア(寒冷地戦)に向けての研究だった。

第31連隊の指揮官、徳島大尉は少数精鋭38人で、入念な準備をして行軍を開始。対して、第5連隊の指揮官、神田大尉は山田少佐に指揮権を実質奪われ、物見遊山感覚の210名で行軍を開始した。

時期は真冬。白い悪魔と化した八甲田山が、人間に自然の力を振りかざす。

全員帰還した第31連隊と199名の犠牲者を出した第5連隊。それぞれの心持ち、覚悟、油断の有無が運命を大きく分けたーー。

感想

この出来事は、実際にありました。時代は明治35年。八甲田山で起きた悲劇の出来事。

軍が絶対。上官が絶対の軍社会真っただ中の日本で起きた、凄惨な事件。自然が人の命を奪っていますが、これは人災。軍の上層部が、両大尉に雪中行軍に行くよううやむやに指示し、元々雪中行軍の指揮官ではない山田少佐が自然を侮り、神田大尉の「生きよう」とする意志をことごとく裏切り続けた。

その結果、真っ白で何も見えない雪山で案内人を立てることなく、210名は長蛇の列となってダラダラと行軍することになり、おにぎりは凍って食べられなくなり、立ち止まる時間も増え寒さが身体を襲った。

「軍」という誉れが浸透していたため、「雪中行軍を諦めて帰る」という選択ができるチャンスがあったのに、「不可能を可能にすることが日本軍」だと声高に叫び、無謀な死地へ足を進めた。

雪の中を泳ぎ、寒さで手足は凍傷に。尿意があっても、ボタンを外すことができず着ていたものは濡れ、すぐさま凍って身体を冷やす。

(私はウィンタースポーツをやるのですが、ゲレンデで気温マイナス10度になったとき、つけていた湿ったグローブがパリパリに凍り、動かしづらくなった経験があります。八甲田山はマイナス20度などの世界なので、マイナス10度でパリパリになるなら本当にすぐ凍ってしまうだろうな、と読んでいて漠然と思いました。もちろん、現代のゲレンデと当時の八甲田山中はシチュエーション、装備等比べ物にならないでしょうが)

食べるものはなく、火はあっても大勢いるため全員が当たれず。必需品を持つ者が決められていたため、その者たちが死んだら誰も手にできず。

寒さと疲れと眠気と空腹。目的地は見えない。次第に見えてくる幻覚と、聞こえてくる幻聴。意識は朦朧とし、一人、また一人と雪の中に倒れ、そのまま動かなくなるーー。

第5連隊は、最終的に11人しか生き残りませんでした。神田大尉は死に、生き残った山田少佐も「自分が神田大尉から指揮権を奪ったからこうなった」と自責の念に駆られ、自ら命を絶ちました。

作品を読んでいるとき、私は山田少佐に対して怒りを向けていましたが、最後、「自分が悪かった」と後悔、反省され、やるせなくなりました。

この作品は、やるせないです。山田少佐は自身の行いを後悔。最初に、大尉2人に雪中行軍を指示した上層部も「自分たちが悪かった」と後悔、反省しています。

怒りの矛先を向けたくなる人たちが、みんな「反省」を口にするため、この怒りをどうしていいか分からなくなり、結局、「無常」や「虚無」の気持ちになるのです。

第5連隊に対して、全員が帰還した第31連隊でしたが、そちらも、頼んだ案内人が凍傷になりその後の生活に支障をきたしました。

それについても、やはりやるせない。

まず、第31連隊の雪中行軍の様子を簡単に話すと、事前準備をしっかりし、徳島大尉自らが選んだ、体力に自信のある者しか連れて行きませんでした。無理強いはしていません。死ぬかもしれないから、同意のもとで雪中行軍に臨みます。

凍傷対策、荷物の持ち方、防寒対策。指揮系統を確立し、案内人をきちんと立て、各ルートごと目的地には村を置き、そこで宿泊。食事、休養をしっかりとる。

油断せず念入りに準備したその結果が、全員帰還という偉業に結び付いたのです。

時代、と言ってしまえばそれまでなのですが、「軍社会」だったことも、この悲劇を生みました。

作中に、「国のために軍に入ったのに凍死するとは」という旨の遺族の言葉があるのですが、全くその通りだと思いました。

犠牲となった人々も「まさか凍死することに」なるとは、思わなかったでしょう。

八甲田山は青森県。私は、行ってみたくなりました。そこにある、この事件の碑などを見てみたい。実際に、八甲田山を感じてみたい。

もちろん、行くなら雪がないときに行こうと思います。

日本で起きた凄惨な事件。自然の脅威、人間の油断。

ぜひ、多くの方に読んでいただきたい作品だと思いました。

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