こんにちは、松波慶次です。
読書好きさんにとても人気な『虐殺器官』を読みました。
今回は、この内容についてお話します。
てっきりグロ多めのエンタメ系かと思っていましたが……
以下ネタバレ注意です!
タイトル:虐殺器官
著者:伊藤計劃
あらすじ
舞台は、9.11事件後の地球。
米軍の暗殺部隊に所属するクラヴィス・シェパードは、戦場で犠牲となった多くの死体を目の当たりにしてきたし、そして、自らも相手を殺すことで死体の山をつくってきた。
父の自死、事故に遭い植物状態となった母の死を選択した過去を背負い、黙々と任務を遂行する。
そんなクラヴィスに新たな指令が下された。それは、各地で虐殺を先導しているジョン・ポールという男を捕まえること。
ジョンを捕まえるため、ジョンの元恋人、ルツィアに近付く……。
その行動は自らに宿る潜在的な意思か? はたまた仕方なく行なっているのか?
近未来に起こりそうな狂気の出来事を描くSF作!
感想
読了後、私の胸を占めた思いは、「これはいつか起こりそうな出来事だな」でした。
各地での戦争、虐殺。それは、過去、現在でも行われています。
戦争、という言い方がよくないかもしれませんね。
内乱、紛争、奴隷制度、人身売買……
世界大戦のような大きな戦争は起こっていませんが、現地の人々にとっては十分「戦争」と呼べる出来事は各地で起こっています。
それらが、近い未来、その範囲を広げそうだと思えてしまいました。
今作で登場するジョン・ポールという人物ですが、彼が各地での戦争、虐殺を誘導しています。どのようにして誘導しているか?
それは、言葉の力です。人間が本来持っている、暴力的な部分、虐殺器官を刺激することにより、戦争や虐殺を仕掛ける。
彼は、愛するものを守るために貧困層の間に内乱を起こさせ、外の世界に危害を向けないようにしている……。
そのような旨のことを言っていました。
なんとも言えない気持ちになりました。それはジョンのエゴであり、じゃあ内乱がある国に住む人たちはどうなるのだと。平和のための生贄じゃないかと。
しかし、その考えが人間の身勝手さを如実に現わしていて、ジョンは悪いやつだけど、根っからの悪ではないことも分かります。
赤の他人より、近しい人を守りたいと思うのは、人間の本能のように思えます。
戦争、虐殺、内乱、紛争……それらの根底には、人間のエゴ、弱さ、見栄、正義がある。
人間が生きている限り、戦争はなくならないと思います。だって、それが「人間」という種族ですから。
暗い話になりましたが、その他に今作で面白かったのは、言語の話です。クラヴィスが暗殺を行なうのは、仕事だからか? それとも殺したい気持ちがあるからか?
人間は命令されて、仕方ない、と思いながら行動するも、必ずしも願望がないわけではない。実は根底に、「騙したい」、「殺したい」、「気持ちよくなりたい」という勝手な願望がある。
言語と人間の深層心理について、クラヴィスやルツィア、ジョンが話しているのですが、それがとても興味深かったです。
今作は、「人間」について深く描かれている、「人間」を風刺する作品だと感じました。
本編を読んだあとに、解説があったのでそれも読みました。
私は、本編のあとのあとがきや解説にも目を通します。今作の終わりには解説(翻訳家:大森望)があり、それを読んで衝撃を受けました。
作者である伊藤計劃(いとう・けいかく)氏が、ご病気により34歳の若さでご逝去されていたことです。
ガンの闘病生活のこと、入院しながらも作品を書くのが好きで、多いと1日に80ページもの枚数を書いたこと、仕事のインタビューなどに病室から答えたこと……。
作者の深い作品に触れたあとに、解説でそのような事実を知ったので、読んでいて胸が苦しくなり、泣きそうになりました。
そして、伊藤氏の作品や執筆に対する情熱にも触れ、尊敬の念を抱きました。
辛い状況だったのに、素敵な作品をこの世に残してくださったこと、心より感謝し、心よりご冥福をお祈りいたします。
追伸
今作を読み、改めて「言葉の力はすごい」と感じました。
「言葉」は人を動かし、心を変えることができます。
作中のジョンは、言葉で「悲劇」を生み出していたので褒められたものではありませんが、私は物書きとして、私の「言葉」に触れる方々に、「快」の感情を抱いていただきたいと改めて感じました。
私の言葉、作品に触れた方々が、「読んで良かった」、「出会えて良かった」と思っていただけるように……。
今後とも、1人の物書きとして精進してまいりますので、応援よろしくお願いします。m(__)m
SF小説の読書記録はこちら
私の著書一覧はこちら