ご返信ください|気持ちの悪い迷惑メールが呼び込んだ憎悪【ホラー】

ご返信ください|気持ちの悪い迷惑メールが呼び込んだ憎悪【ホラー】

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こんにちは、松波慶次です。

ホラー×ショートストーリー『ご返信ください』の小説と朗読動画を載せています。

ぜひお楽しみください(^^)

目次

あらすじ

フリーランスのウェブデザイナーとして働き始めた私は、ブログを開設した。

すると、問い合わせページから「ご返信ください」と一言だけ書かれたメールが届くようになった。

元同僚に相談した後日、ポストに一通の封筒が……。

小説『ご返信ください』

文字数:約2900字

まただ。またあのメールだ。

私はスマートフォンから顔を上げて溜息を吐いた。

フリーのウェブデザイナーとして働き始めて、営業活動の一環としてブログを開設した。問い合わせページも設けたら、私の事業とは関係ない営業メールや英語ばっかりのメールが週に1回は届くようになった。

いわゆる迷惑メールのなかで、誤って振り分けられてしまったのかもと思うメールは一応中身を見ている。それ以外は間髪入れずに削除しているけど、本当に仕事の相談のメールだったら取りこぼすのは惜しい。

そうやって開いた一通が、〈ご返信ください〉の一言だけのメール。

件名は〈デザインのご相談〉だったからつい開いてしまった。それなのに仕事の内容も相手の名前も載っていないメールに開いた時間が無駄だったと落胆したのを覚えている。

それから毎日、〈ご返信ください〉のメールが届くようになった。全部迷惑メールに振り分けられる。件名は違う。〈お仕事のご相談〉、〈デザインのご依頼〉、〈カオルさまのお力をお貸しください〉。メールの内容は同じ。

メールアドレスも毎回違うから受信拒否設定しても手間ばかりかかって意味がない。

私にできることは、あのメールが迷惑メールフォルダに入っていたらそっとゴミ箱に移すだけだ。

*

「え? 何そのメール。なんか気持ち悪いね」

「そうでしょ? 私もきもいなーって思ってんだけど、どうしようもないんだよね」

元同僚で同期だった橋本咲を誘って久しぶりにお昼ご飯を食べに行ったとき、メールのことを話した。

咲はカレードリアを食べながら私の後ろに幽霊でもいるような顔をした。

「いっそ返信したら? そしたらピタッとやむかもよ? もしくは、本当に仕事の話が来たりして」

「そんなわけないでしょ。詐欺か何かのURLが送られてくるだけな気がする」

「迷惑メールはともかく、薫すごいよね。会社辞めて、未経験なのにウェブデザインの仕事をフリーランスで始めるんだもん。ブログ経由で迷惑メールが来るってことは、ブログも結構見られてるってことでしょ?」

「別にすごくないよ。ブログもそんなに見られてるわけじゃないし。ただ、ウェブデザイナーになりたいなって思ってたから、挑戦してみただけ。それがなんとか上手くいったって感じかな」

三浦薫という本名で活動するのは怖かったから、ネット上では顔を出さず、名前も〈ミウラカオル〉にしている。

未経験で、しかもフリーで活動を始めるのは最初は大変だったけど、独学で勉強して、実績を少しずつ積み重ねて、いまではやりがいを得ながら時間の自由度高く働けている。咲には悪いけど、来客対応と書類整理が主な仕事内容だった退屈な会社員時代より充実している。

「私も何かスキルがあればなー」

「やりたいことがあれば勉強してみたら? それで転職でも独立でもしたら、咲も仕事楽しいって思えるかもよ」

「私には無理無理。特にやりたいこともないし。気力もないしね。このままいまの会社に骨を埋めるんだよ」

人の人生をとやかく言うものじゃない。私はそれ以上仕事の話をするのをやめた。

*

私が住んでいるアパートは二階建てで、一階と二階に二部屋ずつの全部で四部屋しかないこじんまりとしたものだった。各部屋のドアに郵便受けはついているけど、一階の階段の脇に全部屋分の郵便受けも設置されている。

私の部屋は二階。仕事は基本的に在宅で、毎日夕方になると郵便受けに何か入っていないか見に行っている。

その日もいつものように郵便受けに向かった。ずっと座りっぱなしだったから階段を下りるだけでも身体がほぐれる気がした。外の空気も新鮮で心地がいい。

郵便受けに取り付けたダイヤルキーを開錠して扉を開ける。チラシが乱雑に入れられていた。どうせテキトーにポスティングされた興味のないチラシしかないだろうと思いながら一気に手に取って部屋に戻った。

テーブルに置き、一枚一枚見ていく。家族葬式場オープン、分譲住宅販売、新規マッサージ店の初回クーポン……思ったとおりどうでもいいチラシばかりが続く。

チラシとチラシの間に一通の真っ白い封筒があった。宛名も送り主の名前も消印もない。直接投函された? 誰が?

封筒の端をハサミで切って中身を取り出す。三つ折りにされた真っ白い紙。開く。

〈ご返信ください〉

思わず放り投げた。紙はひらりと舞ったあと静かに着地する。

もう一度封筒を確認しても何も書かれていない。できればもう二度と触りたくなかったけど、落ちた紙を拾って見る。パソコンで入力して印刷したのか、機械的な〈ご返信ください〉の一文だけ。ほかに情報はなかった。

得体の知れない何かを部屋に入れてしまったような気がして、封筒とともにぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。

暑くもないのにじんわりと汗をかいていた。

*

「前に話した迷惑メールのことなんだけど、あれからアパートの郵便受けにも投函されるようになったんだよね。消印も送り主の名前もなくて、中身は真っ白い紙に〈ご返信ください〉だけ。誰かが直接入れてるみたいだから、怖くて……」

顔を青くして震える薫に、私は飲んでいた紅茶のカップを置いて応えた。

「何それ、怖いね。ストーカーとかかもよ? 心当たりない?」

「まったく。メールだけじゃなくて封筒も毎日来るようになって、怖くて仕事も手につかなくなっててさ」

「引っ越したら? メールは意味ないかもしれないけど、封筒は届かなくなるかもよ」

「それだけでも気分的にはよさそうだから、いま物件探してる。でもメール見ると、やっぱり封筒のことを思い出して気が滅入りそう」

薫は紅茶を口にした。ランチに誘ってきた薫は二週間前より顔が青白く、目の下にはクマが目立ち、身体の線も少し細くなった気がした。

「……何か私にできることがあれば言ってね。物件探しでも、引っ越しでも手伝うからさ」

「ありがとう」

まだ一緒にいてほしそうな薫に「何かあったら連絡して」と伝えて帰路につかせる。その背中を数秒見送って私も自分のアパートに向かった。

いい気味だった。何が〈やりたいことがあれば勉強してみたら?〉だよ。偉そうにしてんじゃねぇよ。もともと何にでも積極的で上司からも認められてたのが気に喰わなかったけど、独立してたまたま成功したからって人を下に見やがって。

薫から迷惑メールの話を聞いたときには、使えると思った。第三者としてメールを送ることはできないけど、手紙なら送れる。住所は知ってたから、これで少しでも仕事に支障が出たらいいと思って〈ご返信ください〉と印刷した紙を封筒に入れて夜中に薫の郵便受けに投函した。

……ただ、私がやったのは一度だけ。薫は封筒が毎日来るようになったって言っていた。おかげで予想以上に薫のメンタルを壊してくれたみたいだけど、誰がやったの?

アパートに着いた。郵便受けを開けるとぎょっとした。白い封筒が入っていた。手に取り、裏返してみる。何も書かれていない。

封筒の端を破る。中を見ると紙が入っていた。

心臓の鼓動が速まる。このまま捨ててしまいたかったけど、確かめずにはいられなかった。

紙を出し、開く。

〈ご返信ください〉

朗読動画『ご返信ください』

動画時間:約10分

あとがき

昔、チェーンメールが流行りました。「このメールを受け取った人は、〇人に同じ内容を送らないと不幸になる」みたいなやつ。

「〇日以内に同じ内容の手紙を〇人に送らないと不幸になる」っていう不幸の手紙のメール版ですね。

迷惑メールは、「ポイント失効」「ポイント進呈」「請求」などで次のアクション(URLクリックなど)を促してきますよね。

いろいろと、あの手この手で「迷惑」なことするなーって思います。

やり方も巧妙になってきているので、気を付けましょうね。

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