こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、ゾッとするホラー小説『玩具修理者』。
以下ネタバレ注意です!
タイトル:玩具修理者
著者:小林泰三
あらすじ
2人の男女が話していた。女は、昼間サングラスをかけている理由として「事故に遭った」からだという。
その事故の話を男が聞くと、女は子供のころ近所にいた「玩具修理者」の話をし出した。壊れた玩具を何でも直すその修理者に、過って死なせてしまった幼い弟を連れて行きーー『玩具修理者』。
ある飲み屋である男が、「自分たちは親友だ」として話しかけてきた。だが、話しかけられた男はその男のことを知らない。
気持ち悪さを感じながら詳しく話を聞いてみると、愛した女を助けるため時間を逆行させようと奔走した自分と、一緒に実験をした、いま目の前にいる男が”実在”したらしいーー『酔歩する男』。
短編と中編2作を収録。
感想
小林先生の作品は、初読みでした。どちらも読みやすく、情景がすらすらと頭の中に思い描かれました。
『玩具修理者』は、幼い子供だった自分が見た情景を回顧して描かれるため、どこか遊んでいるような、跳ねるような残酷風景がありました。
だからといって怖くないわけではなく、「怖いはずのものを怖いと思っていないように」淡々と語られるからこそ、「怖さを感じていない」ようでゾッとしました。
死んだのに修理されて生きている弟(=女と話している男)と、怪我した頭に死んだ猫の目を入れられて修理された姉(=男と話している女)という結末は予想していなかったので、驚きです。
同じく収録されている『酔歩する男』は、SFホラーです。
どちらかというと、SF要素が強いかな? 愛する女を死なせないために時間を逆行しようとする2人の男の話です。
1人は、女は死んだものとして諦め、1人は狂人とばかりに「死」に対抗しようとします。
さまざまな哲学?や物理学?が出てきて、知識欲がとても満たされました。そして、「非実在」と「実在」の話。
ストーリーがとてもよく構成されていて、”世界”や”波動関数”に矛盾がなく、タイムトラベラーとなった自分の脳に翻弄されるさまが、リアルで恐ろしかったです。
そして、もう1人のタイムトラベラーである、飲み屋で声をかけられた男。
彼の目の前から憔悴した男が消えました。話している途中で。タイムトラベルのきっかけとなる「睡眠」をとっていないのに。
これは私の推測ですが、もしかしたら彼のタイムトラベルのきっかけは、夜中0時をまわることなのでは? だから男が消え、彼しか飲み屋にいなかった世界が現れた。
と、そう考えたあとに、「そういえば脳に実験を施した次の日、徹夜していたな」と思い返し、「じゃあその時点でタイムトラベルをしていたことにならないとおかしい」と推測が混乱。
でもそもそも、「徹夜した彼を見た男はそのときの意識の男で、徹夜した彼もそのときの意識の彼なら、0時をまわるとタイムトラベルをするという推測も間違えているとはいえない……?」と考えーー。
あぁ、考えるのは楽しいですが、頭の中がごちゃごちゃしますね。
タイムトラベルものが「混乱してよく分からなくなる」という方も、この作品は丁寧に”世界”と状況の説明をしてくれるため分かりやすく、楽しめると思いますよ。