僕の手|ずっと一緒だと思ってたのは僕だけ?【サスペンス短編】

こんにちは、松波慶次です。

今回は、著作『僕の手』の小説と朗読動画を載せています。

サスペンス×ショートストーリーです。

小説でも朗読でも、お好きなほうでお楽しみください(^^)

目次

あらすじ

代浪島で生まれ、一緒に育った僕と鈴華。僕は鈴華が好きだった。綺麗な白い手も……。

でも高校進学を機に、僕たちは離ればなれに。

8年ぶりに、僕は鈴華に会いに行ったーー。

小説『僕の手』

文字数:約2200字

霧島鈴華の手は、白くてとても綺麗だった。
代浪島という島に生まれ、ゲームセンターとかの娯楽施設がなかったから、僕たちはいつも海や山で遊んでいた。
照りつける陽をいつも浴びていたはずなのに、鈴華の手は焼けることを知らないのか、白いままだった。
焼けた僕の手とは対照的な鈴華の手が綺麗で、僕はそれが大好きで、時々握っていた。
握ると、鈴華は頬を赤く染めながら顔を伏せ、いつも優しく握り返してくれた。

「僕は、鈴華が好きだよ」
「私も、浩平が好き」

幼い頃、よく、そんな会話をしていた。

小学校高学年にもなると、「好き」という言葉はお互い言わなくなったけど、僕は手を握ることはやめなかった。
鈴華は、握り返してくれる。

中学生になると、付き合ってもいないのに手を握るのは変だと気付き、やめた。
鈴華から握ってくることもなかった。
その分僕は、鈴華の綺麗な手を目で追うようになった。

そして、ついに僕たちは高校生になった。
この島には高校がないから、島を出て下宿をし、高校に通わなくてはならない。
進学先は別々で、下宿先の都合上、鈴華は僕よりも先に島を出ることになった。
島を出る船に乗り込む鈴華に、僕は言った。

「鈴華、僕は君が好きだ。だから、またこの島に戻ってきて、一緒に過ごそう」
「……ありがとう。私も、浩平が好き。この島も好き。だけど、私はこの島には、戻らないかな」

プロポーズのつもりで言ったんじゃない。大人になってからも鈴華と一緒に、この島で過ごせたらいい。そう思っただけだ。
鈴華の返事は、僕の心に大きな穴を開けた。好きだと言ってくれたことは嬉しい。島に戻らないという台詞が、信じられなかった。

なんで? 僕と一緒にいたくないの? もう僕は、鈴華の綺麗な手を握れないの?

いろんな思いが頭を駆け回っているうちに、鈴華は僕に背を向け、船に乗り込んだーー。

それから8年。その間、鈴華とは連絡を取ることもなく、僕は高校を卒業して代浪島に戻り、小さな雑貨店で働いていた。
大好きなこの島で、鈴華との思い出に浸りながら、楽しい日々を送っていた。
だけど、足りない。鈴華がいないことが、あの綺麗な手を見れないことが、僕の生活でただ一つ欠けていることだった。

そんなある日、母親から鈴華の現住所を教えてもらった。どうやら、鈴華の母親が僕の母親に話したらしい。

「あんた昔仲良かったじゃん。久しぶりに会いに行ってみたら? サプライズ訪問よ」

からかうように笑う母親を無視し、僕はいま聞いた鈴華の住所をパソコンで調べる。
蘇る、鈴華との記憶。海で水遊びをした。山で探検をした。夕日を眺めながら、手を握り合った。

次の日、僕は鈴華に会いに島を出た。

辿り着いた鈴華の家。
綺麗なアパートだったけど、女の一人暮らしは危ない。
ドアホンを鳴らす。
はーい、という女の軽い声とともに、早足で駆ける音が聞こえてきた。
この時点で、心臓は早鐘を打っている。
必死に落ち着かせようとしても、無駄だった。
ドアが開かれる。

鈴華がいた。8年ぶりに会う、大人になった鈴華。化粧をしていても、雰囲気は変わらなかった。綺麗な白い手も健在だ。

「やぁ、鈴華」
「……浩平?」

声が、少し上擦ってしまったけど、ちゃんと言葉を発せられたことに安堵する。
鈴華は突然の僕の登場に目を丸くしていた。
僕のことを覚えていてくれたことは嬉しい。

「鈴華、お客さんか?」

部屋の奥から男の声が聞こえた。

「あ、えっと。昔の同級生だよ」

鈴華が振り返りながら、男の質問に答える。友達ではなく同級生と言ったことに、違和感を覚えた。
なんで、あれだけ仲が良かったのに友達と言ってくれないのか。
それ以上に違和感があったのが、鈴華の左手薬指に、銀色の輪っかが付いていたこと。

「鈴華、それ……」
「え? あぁ、これね。私、結婚したの」

ケッコン? 鈴華が、ケッコンした。
僕の大好きな鈴華が。なんで? だから島には戻らないって言ったの?
指輪から目を離せない。大好きな、綺麗な白い手にこんなものいらない。他の男の痕跡なんていらない。鈴華は僕が好きなんじゃなかったの?

そのとき、僕はやっと気付いた。
鈴華が進学のため、島を出る日。僕のあの言葉は、プロポーズだったのだと。自分で気付いていなかっただけで、僕は鈴華のことを「結婚したい」という意味で「好き」だったのだ。
もう、遅い。後悔が胸を締め付ける。それと同時に、鈴華に裏切られた気持ちになった。
鈴華の好きは、「結婚したい」という好きじゃなかった。じゃあ、僕のことを弄んでいたの? 僕は鈴華と一緒にいたいと思っていたけど、鈴華は僕のことなんかどうでも良かったの?

頭が痛い。混乱してくる。
頭を押さえながらその場にしゃがみ込むと、鈴華が駆け寄ってきた。
その手が、背中に触れる。
そんな指輪(もの)が付いた手で、サワラナイデクレーー。

「やっぱこの島はいいなぁ」

代浪島に戻り、夕日が照らす浜辺で一人、座り込む。
波の音と風の囁きしかない美しい自然の中で、僕はただただ海を眺める。

隣に置いてある、布袋を手に取った。
島に持って帰らなければと思い、大事に持ってきたそれを胸に抱えて、袋を開ける。
ずしりとした重量感のある袋から取り出したのは、綺麗な白い手。

「やっぱ鈴華はこの島にいないと。僕と一緒に」

鈴華の手を2本とも取り出す。違和感のあった、左手薬指に付いていたものは外してあのアパートに捨ててきた。

夕日を反射させ輝くその手に、頬ずりする。
やはり、綺麗だ。

朗読動画『僕の手』

動画時間:約9分

あとがき

「島」と呼ばれる場所にはいくつか行ったことがあるのですが、有人でも無人でも、どこも非日常な感じがして好きです。

普段住んでいる場所では味わえないような景色、香り、風、体験ができて、とても楽しいです。

場所にもよりますが、船で行くっていうのも、普段からなかなか乗るものじゃないから、わくわくしますよね。船上じゃ、物を落とさないように細心の注意を払いつつ、スマホで写真を撮ったり、景色を堪能します。

あー島行きたくなってきた。

最後までご覧いただきありがとうございました!

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