こんにちは、松波慶次です。
小説投稿サイト「エブリスタ」に投稿していた短編コメディ小説「摩訶不思議戦国アドベンチャー」第7弾です。
今回登場するのは「愛」の字の前立てを兜につけ戦った直江兼続。
それでは、ご覧ください。
※執筆時期は1、2年くらい前
愛
直江兼続は、己の兜を穴が空くほど見つめていた。
その横では前田慶次が大欠伸をし、まさに横になろうとしたときだった。
「慶次」
「んあ? 何だ、兼続」
兼続の真剣さを感じ、倒れかけた身体を起こしながら問いかけると、兼続は兜の前立てである「愛」の字から目を離さぬまま口を開いた。
「私って、結構恥ずかしいやつか?」
「は?」
「『愛』なんて掲げて、結構イタいやつか?」
やっと顔を上げたかと思えば、その目は捨てられそうな犬のように不安と怯えを湛えていた。
慶次は内心そんなことかと拍子抜けしたが、兼続の本気は伝わってくるので、適当にあしらうのはやめる。
「まぁ、なかなか恥ずかしいことだとは思うがよ、いいんじゃねぇか? 実際『愛』って大事だし」
「恥ずかしい、か。やはりそうか……」
俯き、肩を落とす兼続を見て、慶次は補足をする。
「それによ、そういう変わった前立てだったから、後世名も知られるようになったんだし、知名度って点じゃその『愛』の字には世話になってると思うぜ?」
「そう、だよな。確かに……」
「義将とも言われているし、実際お船の方一人しか女房もいないんだし、その字に恥じない生涯を送ってんだ。胸張ってりゃいいんだよ」
「慶次……」
兼続は浮かんだ涙を腕で拭うと、拾われた犬のようにぱっと笑顔になった。
「そうだよな! 私は間違っていない! これからも『愛』を大事に、私の知名度を上げていくぞー!」
(やれやれ……)
元気になった兼続に安堵の息を漏らし、慶次は今度こそ横になり昼寝をしようとする。
夢の世界へ旅立つ前に、さっきの兼続の言葉で引っかかるものを覚えた慶次は、心の中でツッコミを入れた。
(何ちゃっかり知名度も上げようとしているんだ)
完
あとがき
兼続、アホの子っぽい感じになっていますが、私は好きですよ(笑)
「愛」の字は、愛情とかという意味ではなく、愛染明王からとったといわれていますよね。
何はともあれ、あの前立ては印象に残りますし、知名度上げるにはもってこい!
十何年前にやっていた人気番組「トリビアの泉」でも、取り上げられていましたからね(笑)