こんにちは、松波慶次です。
「軍艦島」を舞台のモデルにした本作。「誰が犯人だ?」と読みごたえがあり、とても面白かったです。
以下ネタバレ注意です!

タイトル:海と月の迷路
著者:大沢在昌
あらすじ
若き警察官・荒巻は、N県にあるH島の派出所勤務を任じられた。
炭鉱の島であり、島そのものがM菱の所有物であるH島には、M菱の職員(外勤係)、石炭を掘る鉱員、下請け業者の組夫(くみふ)のほか、医者や教員、食堂の店主に子供たちなど、5000人以上が暮らしていた。
同僚警察官・岩本に、この島の特徴として、「もめ事が起きても警察官ではなく外勤係が仲裁する」「島で起きたことにむやみに首を突っ込まない」ことを教えられ、もやもやとしていた荒巻だったが、ある日、ひとりの少女が行方不明となり、溺死体で発見される。
事故と処理されたが、組夫のひとり、長谷川に「事件の可能性」を指摘され、荒巻は独自の捜査を開始する。
やがてその捜査は、外部から閉ざされ、特殊な自治で成り立っているH島の人々との確執を生んでいくーー。
感想
長崎県長崎市の端島(はしま)。通称「軍艦島」が舞台のモデルとなった本作は、ところせましと建物が立ち、小さな島なのに人口が多く「世界一の人口密度」にもなり、それでいてプールや映画館などの娯楽施設もあったなど、モデルとなっているだけあってまさに読んでいると「軍艦島」のイメージがありありと浮かびました。
近年、軍艦島はテレビ番組でテーマにされることも多く、どういう島だったのか、人々はどのように暮らしていたかなどが紹介されており、時々目にすることがあったので、「やっぱすごい島だったなぁ」と改めて思いました。
ただ、著者も最後に断っていますが、あくまで舞台のモデルとなっただけで、軍艦島で実際に本作のような事件や確執があったわけではありません。そこは、リアルとフィクションを混同しないように注意が必要ですね。
さて、荒巻は元刑事の組夫・長谷川の言葉を受け、少女の溺死が事故以外の可能性を探り始めます。8年前にも同じ年齢の少女が「満月の日」に「髪を切られた状態」で海で溺死したことを知り、少女を狙う猟奇的な殺人犯が現在も島にいると判断。
しかし、「島民はみな家族」「組夫は身分が下」と思っている外勤係は、荒巻の言動に冷ややかな態度になり、次第に敵対視するように。
それでも荒巻は、警察としての職務を全うするため、新たな被害者を出さないために、長谷川や組夫頭の小宮山(こみやま)らと協力して事件解明に動いていく。
読んでいて、怪しい人物が何人も出てくるのですが、捜査の結果犯人ではないと判断されるたびに、「じゃあ誰が犯人なんだ」とドキドキしました。怪しいと踏んでいた人物が違ったりして、私がようやく「もしかして……」とある人物に思い当たったときには、荒巻も犯人がわかる直前でした。
タヌキこと、食堂の店主・田牧。このまま犯人が分からないまま終わって、実は「次巻に続く」本だったらどうしよう、でもそれなら絶対に買う、と思うほど残り数ページになったところで田牧が犯人だと分かり、「ちゃんと完結する」と安堵したものです。
荒巻と外勤係・片桐との仲が戻ったのは良かったのですが、私が好きだった長谷川や小宮山が最後のほうで出てこなかったのは少し残念。キャラも好きですが、荒巻との協力関係がまた好きだったんですよね。小宮山の「殴るなら自分を殴れ」と部下がやったことの落とし前を自分がつけようとする姿、かっこよかったです。だから、田牧が犯人だと分かったとき、長谷川と小宮山には、荒巻と一緒に活躍してほしかったです。
ちなみに、「隔離された文化」「独自自治」という点で、本作を読みながら『鵜頭川村事件』が浮かんでいました。『鵜頭川村事件』は、その名のとおり村が舞台なのですが、隔離された土地ならではの人間模様や価値観などがあって、物語は違えど「怖さ」は似ています。
本作は、ミステリーとして楽しめるだけでなく、人間関係や「和を乱す」ことの代償など、人間の怖い部分も存分に表現されていて、「自分だったらどうするか?(事なかれ主義になるか?)」なども考えさせられます。
「正義」を貫く若き警察官・荒巻の奔走と葛藤。気になった方は、ぜひ読んでみてください。
