こんにちは、松波慶次です。
ファンタジー×ショートストーリー『歪み桃太郎』の小説と朗読動画を載せています。
ダーク仕様です。まったく子供向けではありません。
あらすじ
鬼ヶ島へやってきた桃太郎ご一行。
様子のおかしな犬、猿、キジを従えた桃太郎は、これから起こることを考えると楽しみでしょうがなかった。
いまが正解でも、あのときの痛みや苦しみは忘れないーー。
小説『歪み桃太郎』
文字数:約1400字
桃太郎は考えていた。媚びへつらうように卑しい顔をして脇に控える猿を見て。自分の行いは絶対に正しいのだと疑わない、正義面をした犬を見て。
やはり、このきびだんごは与えた者に絶対服従させる効力があるらしい、と。
鉄壁の守りを誇る鬼ヶ島の門扉を開けるため、先に潜入している暴力に飢えたきじも、桃太郎の言うことに逆らうことはなかった。
我先にと小船から鬼ヶ島に乗り込もうとする猿と犬の背を見る桃太郎の口角が、不気味に歪む。
今回のおじいさんとおばあさんは、正解だった。
雪の降り積もる中素っ裸で庭先に出され、凍死することもなかった。奴隷のようにこき使われ、一日に一杯の汁物しか与えられず、餓死することもなかった。
姿かたちは全く同じなのに、きちんと食事と寝床を与え、愛情をかけて育ててくれた。
鬼ヶ島へ鬼退治に行くと言ったとき、おばあさんは道中腹が空かぬようにと、子を思う母の気持ちで大量のきびだんごを用意してくれた。
これこそが桃太郎だ。桃太郎が桃太郎として存在する意義は、鬼退治をし、宝を得て村を豊かにすること。
だから、いまここにいる桃太郎は、正解のはずだった。
「桃太郎さん、早く行きましょうぜ」
猿が揉み手をしながら先を促す。
「残虐非道な鬼どもを、一匹残らず殲滅しましょう!」
犬がきゃんきゃんと喚く。
絶対に逆らわない従順な下僕たちに、桃太郎の歪みはさらに増した。
「慌てるな。きじが錠を開けるのを待て」
「桃太郎さん、開けましたぜ!」
血に飢えたきじの声が響いたかと思うと、猿と犬は奇声を発しながら門を押し開けた。
やれやれと思いながらも、このあとに待ち受ける未来を考えると胸が躍った。
「なんだお前ら!」
鬼の怒声が響く。子供を遊ばせていた女たちは子を抱き締め、男たちは手に金棒を持ち立ち向かおうとする。
桃太郎は知っていた。鬼ヶ島の鬼たちは、実は臆病であることを。それを裏付けるように、金棒を持つ手は震え、武器を持たぬ男は女たちとともに身を固くしているだけだった。
きじが空から降りてきて猿、犬と並び、鬼と対峙するかたちになった。
いまにも飛びかからんとする下僕たちを諫めながら、桃太郎は前に出て鬼ヶ島の大将らしき大柄な鬼を見上げる。
「俺の名は桃太郎だ。別に、お前たちに危害を加えるつもりはない。話し合いに来た」
「なぁにが話し合いだ。お前の手下どもは、いまにも襲い掛かる勢いだぞ」
「血気盛んなやつらなんだ。すまん。お前たち、下がっていろ」
三匹の下僕たちは、恭しく下がった。
その姿を見て、桃太郎は満足そうに腰に下げたきびだんごの袋を取り出した。
「手土産を持参したんだ。これでも食べながら、俺の話を聞いてくれないか?」
鬼は臆病で、馬鹿だ。敵意を見せず食べ物をちらつかせれば、警戒を解く。そのくせ、腕力は強いから暴力には向いている。
相好を崩した鬼は、桃太郎の手からきびだんごを受け取った。瞬く間に全鬼の手にわたり、服従の麻薬であるきびだんごは、胃から脳を、そして身体を支配していった。
桃太郎は三匹と鬼たちを連れ、村に戻る。鬼たちが乗る巨船を従え小船に揺られながら、記憶の中の桃太郎たちを死に至らしめたおじいさんとおばあさんの顔を思い浮かべていた。
現在が正解でも、前世の痛みは忘れない。
おじいさんとおばあさんの泣き喚く姿を想像すると、小舟の遅々とした進行がもどかしく感じられた。
朗読動画『歪み桃太郎』
動画時間:約5分半
あとがき
団子は好きです。みたらしでも、あんこでも、なんでも。お茶やお抹茶といただく団子はまた格別ですよね。
団子とは少し違いますが、岐阜県に旅行したときに、泊まった旅館の夕飯(懐石料理)で五平餅が出てきました。
お料理はとても美味しかったのですが、なにせボリューミーで、なかなかに腹が苦しくなってきたところで五平餅の登場。この旅館、やってくれるわ……。
もったいなかったのですが、五平餅を含め料理をすべて食べきることができませんでした。あのときほどのボリュームの懐石料理、ほかでは当たったことないかも。それだけ豪勢で、大量で、満腹中枢と胃への攻撃が半端なかったです。
腹八分目くらいの懐石料理がちょうどいいですね。
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