死なせてください|死んだ殺人鬼は目覚めるとぬいぐるみになっていた

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こんにちは、松波慶次です。

コメディ×サスペンス×ショートストーリー『死なせてください』の小説と朗読動画を載せています。

美人ばかりを狙う殺人鬼が転生したのは、少年が愛するぬいぐるみだった……。

ぜひお楽しみください(^^)

目次

あらすじ

俺は美人の女を殺すのが好きだ。整った顔から生気が失われるのを見るのがとんでもなく気持ちいい。

その日も女を殺していた。だがふとしたことで頭を打ち、死んだ。

目覚めたとき、俺はショウというガキのぬいぐるみ「チャッピー」になっていた。これが巷で話題の転生ってやつか?

まぁいい。俺はチャッピーとして、第二の人生を生きる。また美人を殺していってやるーー。

小説『死なせてください』

文字数:約7600字

 赤く染まった左乳房が揺れる。別にそんなものに興味はないから、両手で掴んで大きく振り上げた包丁を目の前の女の喉や胸に構わず突き立てる。何度も何度も。着ているものはさらに破れ、右乳房も露出した。テラテラとした赤い液体で濡れた膨らみへ最後の一刺しを入れ、すでに息絶えている女の上からどいて立ち上がる。

 どのくらい馬乗りになっていたのか。楽しくて刺している最中は気付かなかったが、膝が痛い。路地裏の汚いアスファルトに全体重をかけて膝を押し付けていたんだ。赤くなってるかもしれねーな。

 これで今月3人目。女を殺すのは楽しい。しかも美人を殺すのが。男と違って肉が柔らかいから、刃もスルスル入る。脂肪が多い分すぐに包丁が使えなくなるのが難点だが、整った顔から生気が失われ、キラキラと輝いていた瞳から光が失われるのを見るとイきそうになるほど気持ちがいい。

 さて、長居は無用だ。サツが来たら面倒くさい。

 多少暗闇に目が慣れたとはいえ、月明かりも何もないと足元が見えづらいな。だがいま来た道を戻れば、障害物はないはず。

 一歩二歩と踏み出したとき、つま先が何かに当たった。バランスを崩し、転ばないように体勢を整えようとしたら、今度はぐにゃりとした何かを踏んで後ろ向きに倒れた。

 後頭部に鋭い痛み。景色が歪む。そのまま背中を硬いものに預けたまま、ズルズルと倒れ込んだ。近くにあった花壇の角に頭を打ったのか? 意識が朦朧とする。まさかこのまま死ぬんじゃ……。

 視界に闇が広がってきた。死を覚悟したとき、俺をこんな目に遭わせたものを突き止めてやろうと地面に目を凝らす。

 女が持っていたボストンバッグと、脱げたハイヒール。くそっ! まさかこんな形で、仕返しされる……とは……。

 初めての〈死〉は、頭のジンジンとする痛みはあっても、眠るように安らかなものだった。

*

「チャッピーおはよう」

 甲高い声がうるさくて目を開けると、男のガキが笑っていた。

「今日もいい天気だね。今日は何する? 砂場でもいく?」

「うるせぇなぁ行くわけねーだろ。ってかここどこだ? 天国か? って、俺が天国に行けるわけないか」

「え?」

 ガキは目も口も大きく開けて固まった。じっと俺を見つめている。

「なんだよ。そんな見てっと殺すぞ」

「チャッピーが喋った」

「はぁ? チャッピーって誰だよ? 俺は……」

 立ち上がったとき、妙なものが見えた。俺の右腕。ゴリラ並みに毛が生えてなかったか?

 腕を視線の高さに持ってくる。黒く、毛むくじゃら。手の先は人間のように5本指だが、フェルト生地みたいだった。

 しかも、立ち上がったのにガキを見上げている。俺は178cmある。普通、俺が見下ろす側だろ?

「おい、鏡あるか?」

「え、あ、あるよ!」

 ガキは近くの棚にあった鏡をとると、俺の前にかざした。

 そこに映ったのは、二足で立っている、顔はクマ、身体はゴリラのぬいぐるみだった。

「なっ!?」

 息を呑むと、鏡のなかの気持ち悪いぬいぐるみも俺と同じく目を見開き、一歩後退していた。

「なんじゃこりゃー!?」

「ぼ、僕のセリフだよ。チャッピーどういうこと? 昨日は喋らなかったし動かなかったじゃん!」

「いや、俺のセリフだよ! なんで俺がこんな、え? 死んだはずじゃ!?」

 まさか、これが巷で話題の〈転生〉ってやつか? 漫画とかでよくある。殺人が趣味の俺は見ちゃいないが、よく得物をネットで探してるときに広告で出てきてたような……。

「ってか、転生するにしてもなんだよこのキモいぬいぐるみは! 最悪だわっ! せめて人間にしろよ! そうすりゃ第二の人生を楽しめるのによ!」

「チャッピーはキモくないよ! 僕の友達で、ヒーローなんだ!」

 ガキは鏡を放り出すと近くにあった大きな箱を手に取った。

 年季が入っているのか、日焼けしたその箱をぐいと俺の目の前に突き出す。箱にはこのぬいぐるみが描かれていた。

「これ! チャッピーは、かわいいクマの顔と、力強いゴリラの体をもつ、強いヒーローなんだ! パンチは強いし、ハチミツも大好き! かわいさと強さの融合体だよ」

「いやいやどういうコンセプトなんだよ! どっちかでいいじゃねーか!」

 落ち着け。一旦落ち着け。深呼吸。周囲を見回す。

 ここは子供部屋のようだ。小さなベッドにタンス。部屋の片隅にはロボットやぬいぐるみが入った箱が置かれている。このガキの部屋ってことか。

 どうやら俺はこのガキのチャッピーっていう誰ウケかわからないぬいぐるみに転生したようだ。名前も似てるし、殺人鬼が人形に魂を移す某映画かよ。経緯は違うが、神のイタズラか? 神なんて信じてねーけど。

「おい、ガキ」

 箱を元の位置に戻したガキは、俺と目線を合わせるために座った。

「なに?」

「俺は殺人鬼だ。不慮の事故で死んで、たまたまお前のチャッピーに転生しちまったらしい。だから、これからは俺の言うことを聞け。でないと殺す」

「何言ってるの? 僕がチャッピーと話したい、遊びたいって思ったから、神様がチャッピーに魂を与えてくれたんじゃないの?」

「お前、名前は?」

「ショウ。5歳」

「歳は聞いてねーよ。いいかショウ。夢を見るな、理想を抱くな、誰も信じるな。この世の中、願ったことの99.9%は叶わねーんだよ。ぬいぐるみはただのぬいぐるみだ。チャッピーがいま喋ってるのは、俺という人間がたまたま転生したからなんだよ。本当に神がいてチャッピーに魂を与えたなら、もっと性格のいいやつにしただろうさ。わかったらとっとと食い物持ってこい。腹減った」

 ショウは不思議そうな顔で俺を見ながら立ち上がると、ゆっくりと部屋を出ていった。

 静かになった部屋で、俺はベッドに這い上がるとあぐらをかいて座り、腕を組む。

 これからどうするか。チャッピーに転生しちまったなら、それはそれでしょうがない。地獄に落ちて苦痛を味わうよりは、断然いいだろう。ま、天国も地獄も信じてねーけど。これが俺の第二の人生なら、それはそれで謳歌してやる。姿かたちは違えど、一応人間のときみたいに身体は使える。ショウを従えて、この家を拠点にしつつ、前みたいに殺人を……。

「持ってきたよ、チャッピー。これ。コーラとナゲット。ちょうど冷凍ナゲットがあったんだ」

「おう」

 ショウの持つお盆には、コーラが入った2つのグラスと湯気の立つナゲットが積まれた皿が乗っていた。そばにあった小さな箱をテーブル代わりにして、差し出されたグラスをとり、コーラを飲みながらナゲットをつまむ。うめぇ。ぬいぐるみの見た目じゃ歯なんて見えないが、口を動かせばちゃんと噛みちぎれる。

「僕も一緒に食べる!」

 俺の隣に腰かけたショウも、ナゲットを食べ始めた。先ほどの怪訝そうな顔と打って変わってにこにこしている。ときおり俺を見ては、目を細めてふふっと笑っていた。

「なんだよ」

 睨むと、ショウはあっけらかんと言った。

「チャッピーとご飯食べられるの、嬉しくて」

「は?」

「チャッピーの言ってることはよくわかんないけど、チャッピーが動いていることは事実でしょ? 僕、チャッピーのこと大好きだから、一緒に話せて、一緒にご飯食べられるの、すっごく楽しいし嬉しいんだよ」

 こいつ、殺人鬼って言葉の意味知らないのか? 通算じゃ、俺は5人以上女を殺してんだぞ? 野良猫だって、カエルだって、よく切り刻んで遊んでる。それなのに、なんでそんな笑顔を向けられんだよ。

「……お前、バカだろ」

「バカって言っちゃダメなんだよ」

「お前、俺のこと誰にも話すなよ。親にも、友達にも。言ったら殺……もう一緒にいられなくなるからな」

 言葉を選んだ甲斐はあったようだ。ショウは泣きそうな顔をしながら何度も頷いた。

「うん。誰にも言わないよ」

 さすがに親や周りが俺の存在を知ったら、警察かマスコミに連絡すんだろ。そしたら捕まってどういう仕組みになってるか実験され、もう二度とシャバになんて出てこられなくなりそうだ。

「ちょうどお母さんもお父さんも出張でいないんだ。今晩帰ってくるけど、それまでは僕とチャッピーの二人きりだよ」

「へーそうなのか」

 じゃあその間に、こいつを完璧に俺の奴隷にしてやろう。こいつはチャッピーのことが相当好きみたいだから、言葉巧みに言いくるめて、俺の言うことには絶対服従させて……。

 突然温かいものが身体を包み込んだ。驚いて顔を上げると、目をつぶり微笑んだショウの顔がすぐそばにあった。

「なっ! おいなんだよ! 離せよ!」

 抱きしめられた俺は、その腕のなかから逃れようと必死にショウの胸を押す。さすがに人間のときほどの筋力はないのか、ガキの薄い胸でもなかなか引き離せなかった。

「チャッピー、これからも一緒にお喋りしようね。大好きだよ」

 頭のなかでピキリと音がした。何かが割れるような。でも不快じゃない。頑丈な扉を、誰かが外から優しくノックするような感覚。なんだ、これは?

 気持ち悪くなってショウの胸を思いきり押した。うわっと叫びながらショウが倒れ、俺も反対方向に転がる。

 また捕まる前に素早く立ち上がると、人差し指を突き付けて叫んだ。

「お前! 俺に気安く触るんじゃねぇ! なんかこう……ムズムズすんだよ!」

「えーよくわかんないよ」

「わかれ!」

 首をひねりながら身体を起こしたショウはすぐに笑顔を浮かべた。

「だって、僕とチャッピーは生まれたときから一緒なんだよ。チャッピーは、僕が生まれたときにお母さんとお父さんが買ってくれた、僕の最初の友達なんだ。ずっと一緒のチャッピーが初めて喋って、動いて、僕と一緒にナゲットを食べるなんて、嬉しくないわけないじゃん」

 またしても頭のなかで音がした。何かの映像。靄がかかっていてはっきりとはわからないが、ガキが泣きながらクマのぬいぐるみを抱えている。そのガキの腕は、傷だらけで……。

「チャッピー」

 呼びかけられた途端、映像は消えた。ショウはゲームのコントローラーを持っていた。

「リビングに行って一緒にゲームやろうよ。僕一人っ子だから、友達やお父さんたちがいないとゲームやる相手いなくて。一人でやってもつまらないからさ」

 友達を誘うような口ぶりのショウに、誰かが重なった。それが誰かはわからなかったが、俺は頷いていた。

*

 ゲームをやりながらデリバリーしたピザを食った。俺たちは俺たちしかいない時間を満喫した。ことあるごとにショウは俺を抱きしめ、「大好き」だと言ってきたが、不思議と最初ほど悪い気はしなくなっていた。それどころか、綿しか詰まっていないはずの胸が温かくて、それが心地よくて。恥ずかしくなって押しのけるまで、じっとしてしまう。

 なんなんだ、この感じは。俺はどうなっちまったんだ?

 ショウがトイレに行っている間、ポーズ状態のテレビ画面を見ながら胸に手を当てて考えていると、ドアの開閉音が聞こえた。

「ただいまー」

 女の声。母親か?

 とりあえずじっとしとこう。ぬいぐるみのチャッピーになりきって、さりげなくショウに部屋に連れていってもらおう。

 身体の力を抜き、ぬいぐるみらしくだらんとしたとき、母親がリビングに姿を現した。パーマがかったセミロングのこげ茶の髪。面長で高い鼻筋。パッチリとした二重の瞳。八頭身はありそうなすらりとした身体に、スーツ姿がよく似合っていた。

「あれ? ショウいないの?」

 リビングをきょろきょろと見回すと、トイレで物音がすることに気付いたのか、納得したように頷いてリビングを出ていった。自分の部屋に荷物でも置きに行ったのか。

 血が湧きあがるのを感じていた。心臓が脈打ち、呼吸が荒くなる。涎が垂れそうになるのを必死に堪えた。

 俺好みの女だった。俺の、殺したい、美人な女。あの長い手足が魚のように跳ねて、ぷっくりとした唇から血を垂らして、死ぬ姿を見たい。見たい!

 涎が垂れた。堪えきれなかった。

 立ち上がりキッチンへ向かう。戸棚を開けるとよく磨かれた切れ味の良さそうな包丁が3本収納されていた。一番長く、刀身が細い包丁を手に取る。

 包丁を後ろ手に持ったまま、もとの位置に戻る。だらけたように座って、女が戻ってくるのを待った。

 Tシャツにワイドパンツという部屋着に着替えた女がリビングに入ってきた。ちょうどショウもトイレから出てくる。

「あ、お母さん! おかえり」

「あ、ショウ。ただいま」

 女の視線がショウに向く。その一瞬の間に俺は跳ねるように立ち上がると一足飛びで女に向かい、右の太腿に包丁を突き立てた。

「うっ!」

 短い声を発しながら膝をつく。ショウが「お母さん!」と叫んで女の肩に手をやった。

「ぎゃはははは! やっぱ女の肉はいいなぁ!」

 俺に気付いたショウは、血の付いた包丁を見てすべてを理解した。女の手を引いて逃げようとする。

「させねぇよ!」

 傷は深いはずだ。思いきり肉に刃を沈めたから。立ち上がれず這うように進む女の背中に飛び乗り、今度はわき腹に刃を立てる。

 言葉の判別ができない悲鳴を上げて、女が廊下に倒れ込んだ。ショウが叫ぶ。

「チャッピー! やめてよ! なんでこんなことするの!?」

「最初に言っただろ! 俺は殺人鬼だ! お前がチャッピーのことを好きなように、俺は人を殺すのが大好きなんだよ!」

 女の背中から降りて腹を蹴った。いまの俺の力じゃ無理かと思ったが、アドレナリンが出ているからかあっさりと女は仰向けになり、歯を食いしばって痛みに耐えるきれいな醜い顔を見せてくれた。

 そのまま胸の上に乗る。ショウが玄関に向かう。助けを呼びに行くのか。もう遅い。

 重みを感じた女の目が俺を捉える。

 そのまま俺を見ててくれ! 光が消えるところを見せてくれ! イくほどの興奮を味わわせてくれ!!

 傘を持ったショウが戻ってきた。すでに振り上げていた包丁は止めることもできず、止める気もなく、そのまま女の胸に突き刺した。数センチ入ったところで骨にあたる。邪魔なものをぶち壊すために、何度も何度も振り下ろす。

 ショウの目の前で、大好きな母親とチャッピーが血塗れになっていく。一方は徐々に動かなくなり、一方は狂った振り子人形のように動きをやめない。かわいそうなんて思わない。ショウも、母親も。これが俺だから。俺の人生だから!

 目の前から母親が消えた。ショウも、手のなかの包丁も。家もない。すべてが真っ暗だ。月明りがうっすらと照らす闇じゃない。墨汁の水槽に入れられたかのような、漆黒。

 なんだここは。喋れない。動けない。一体どうなってやがる?

「第二の人生のチャンスを失ったんだよ、君は」

 は? ショウの声? おい、お前はどこにいるんだ!?

「せっかくチャンスを与えてやったのに。君はまた人を殺した。だから失敗したんだ」

 説明しろ。俺の声、聞こえてないのか?

「聞こえてるよ。僕は君たちの言葉でいう、神だからね」

 神? ふざけてんのか? チャンスって、なんのことだよ。

「君は、幼少期に両親に虐待されていた。ご飯を与えられず、数日間水と調味料だけで過ごすことはザラだった。母親も父親も、別に子供が好きじゃなかったけど中絶手術代をケチった結果、君が生まれた。だから君は両親にとって邪魔者で、でも憂さ晴らしにはちょうどいい存在だった。よく殴られ、蹴られ、切られていたね」

 なんだよ。同情か? 

「君は、たまたまゴミ捨て場で拾ったクマのぬいぐるみを大切にしていた。自分が辛い目に遭ったとき、そのぬいぐるみを抱きしめて、泣いていた。父親がぬいぐるみを切ったときには、縫ってあげてたよね」

 そうか。ショウに抱きしめられたとき。俺が見たのは、俺と、あのクマのぬいぐるみだったんだ。俺の唯一の友達だった。

「いつの間にか母親に捨てられてしまったぬいぐるみが、僕に言ったんだ。もし君が死ぬ前に過ちを犯していたら、人生をやり直すチャンスをあげてって。そのぬいぐるみは君に感謝していたから、お礼をしたいと言っていたよ。君は無関係の人をたくさん殺したけど、僕は君が大切にしていたぬいぐるみに免じて、一度きりのチャンスを与えたわけさ」

 なんだよそれ、最初に言えよ! どうしたら成功だったんだよ!?

「君は愛される幸せを知らない。もしチャッピーとしての君が、ショウとしての僕や疑似家族の愛を受け、君好みの母親を見ても殺そうという気持ちが湧かなかったら、僕は君を認めて、また人間に生まれ変わらせようとしていた。まさかこんなに早く殺すとは思わなかったけど」

 じゃあ、すべては仕組まれてたってことか? お前が俺を抱きしめたのも、俺が興奮するような女を母親として登場させたのも。

「そうだよ。そして、君は失敗した。もう、人間に生まれ変わることはない」

 ふざけんな! 俺はどうなんだよ!?

「じきにわかる」

*

「おはよう、マリちゃん」

 目を開けると、女のガキが俺を見ていた。歳は、ショウと同じか、少し下か。手にはおもちゃの包丁を握っている。

「もうすぐ朝ご飯ですよー」

 ガキは近くにあったおもちゃの野菜を切りながら、楽しそうに俺に話しかけてくる。俺は座っているみたいで、長い2本の、ピンクの毛むくじゃらの足が前に投げ出されている。もしやまたぬいぐるみになったのか? だったらまた動いて、好き勝手やってやればいい。

 立ち上がろうとしたが、動かなかった。手も、足も、首も。身体の感覚はあるのに、何も動かせない。

「できた! はい、ご飯」

 半分になったかぼちゃのおもちゃを俺の口元に持ってくる。そのときガキが俺の左足を踏んだ。体重がかかり、痛みが走る。くそっ! 踏むなよ。動けねぇのに、これじゃ拷問じゃねぇか。

「それが君の罰」

 ショウの声がした。どこだ、どこにいる?

「探してもいないよ。僕は君に説明したら、本当に消える。もう声も聞こえなくなる」

 おい! 俺はこれからどうなるんだ! 罰ってなんだよ!

「説明義務があるから、慌てなくても話すよ。君の魂は、マリちゃんっていうピンクのクマのぬいぐるみに入っている。でも、チャッピーのときみたいに動けないし喋れない。食欲も睡眠欲も性欲もないけど、痛覚はあるから、腕を握られても、高いところから落とされても、目に指を当てられても、通常、人間がされて痛いと感じることはすべて痛みとして君に生じる」

 待てよ、本当に拷問じゃねぇか! 死んじまうよ!

「大丈夫、死なないよ。燃やされるか、四肢と首が胴体から離れるまではね。四肢が切られたくらいじゃ、ただ痛いだけ。ショック死はない」

 なんだよそれ。じゃあ俺は、焼却炉に入れられるかバラバラにされるまで死ねなくて、ずっと苦痛を味わい続けるってのか!?

「理解が早くて助かるよ。君はそうして、自分勝手に殺してきた人の痛みを、自分の罪を知る。説明は以上。じゃあ、僕は消えるね」

 そんな! 悪かったよ! 許してくれよ、おい!

 返事はなかった。代わりに聞こえてきたのは、パコッという軽い音。

 ピンク色のマジックのキャップを外したガキが、その先端を俺の目に近づけてくる。

「お目目ピンクのほうがかわいいよね」

 マリちゃんに対する愛に、何度もやめろと叫んだ。殺した女に謝った。出もしない涙が溢れた。死なせてくれと祈った。

 視界がピンクに染まる。

 願いは叶わなかった。

朗読動画『死なせてください』

朗読動画『死なせてください』は前後編にわかれています。

前編

動画時間:約12分

後編

動画時間:約11分

あとがき

殺人鬼の魂が入った人形、「チャッキー」が主役の映画『チャイルド・プレイ』。確か最初に見たのは小学生のとき、「チャッキーの花嫁(4作目)」でした。家族が借りてきて、ホラー映画が好きだった私はワクワクして見ました。面白かったです。

そして大人になってから、改めて1作目から見ました。1、2、3と見て、「花嫁」ももう一回見たかったけど見られなかったので、5作目の「チャッキーの種」へ。もうこれはギャグ。面白かったけど、ホラーという感じではない笑

6作目以降もあるようですが、「ギャグになっているならもういいかな」と思い続編は見ていません。しかし、『チャイルド・プレイ』について書いていたらなんだか見たくなってきました。機会があったら見てみよう。

最後までご覧いただきありがとうございました。ぜひほかの著作もお楽しみください!

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