こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、重松清さんの作品『ビタミンF』です。
以下ネタバレ注意です!
タイトル:ビタミンF
著者:重松清
あらすじ
妻を持ち子供を持ち、平穏な毎日を暮らす……しかし、そんな平穏な毎日にふと、疑問が生じることがある。
自分の人生のこと、歳を取ってきた年月のこと、妻や子供との関係のこと……。
主人公は全員、夫であり父親である男性。そんな男性たちの、日常で感じる葛藤や居心地の悪さ、抵抗を描いた7作収録の短編集。
感想
読んでいる最中、「人生とは」のような、大きなテーマについてついつい考えてしまう作品です。
三十代後半になりいまの自分と学生時代の自分を比べる男性、自分の娘がいじめに遭っていることを知りどう対応しようか悩む男性、「俺の人生こんなもんか」と悟り妻と別れようとする男性……。
さまざまな家庭環境や性格をもった男性たちが、7作それぞれの主人公として登場します。場面は日常生活でありえそうで、実際に経験している人もいるかもしれません。そんなリアルなストーリーでありながら、異性である私でも共感してしまうような、「人間の複雑な心情」が細やかに描かれています。
中でも特に印象的だったのが、『セッちゃん』という話。娘が「学校でみんなから嫌われているセッちゃん」の話をするのですが、実はみんなから嫌われている(いじめられている)のは娘自身で、それを知ったときの両親の行動が、じんわりするといいますか、強く印象に残りました。
実際に、自分の娘がいじめられていると知ったとき、多くの人が、どうすればいいのだろうと悩むと思います。直接娘に問うのも、いじめられている素振りを見せず気丈に振舞っているので、躊躇われます。かといって、いじめを放っておきたくはない、娘に辛い思いをしてもらいたくはない、と思うのが親心だと思います。
ラスト。流し雛をやり、母親と娘が涙を流すシーンが、とても胸が痛くなり、それでいて、文章や描写の美しさがそのシーンを綺麗に留めてくれて、なんだかキラキラと輝いているのです。
何度思い返しても、娘や家族のことを思うと苦しくなります。しかし、それだけでなく、「綺麗」だと思ってしまうのです。
ちょっと人生に疲れたときとか、自分の人生に疑問を持ち始めたときに読みたい、そんな1冊です。