こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、『白鳥とコウモリ』。
東野圭吾さんの作品、久しぶりに読みましたが相変わらず圧巻です……。
以下ネタバレ注意です!
タイトル:白鳥とコウモリ
著者:東野圭吾
あらすじ
「あの人が殺されるなんて……」
人から恨まれることなど考えられない白石弁護士が何者かに殺害された。逮捕された容疑者・倉木は、「自分が過去に犯した殺人を暴かれそうになったから殺した」と言う。
倉木が犯した殺人により、別の者が冤罪で逮捕され、しかも留置場で自殺していた。結果的に、倉木は二人の人間を殺害、一人の人間を死に追いやったことになる。
しかし、その「真実」に納得のいかない者がいた。白石弁護士の娘、白石美令と倉木の息子、倉木和真。被害者の遺族と加害者の家族という、決して交わることのない2人が、真相解明に動き出す。
光と闇、表と裏……白鳥とコウモリが一緒に飛んだとき、身を引き裂くような真実が現れる……。
感想
倉木が「私が白石さんを殺した」と言ったのは、確か単行本の半分より手前でした。
「え? 真相解明? これで終わり……ってわけじゃないよなぁ」と、残りの分厚いページを見ながら、戸惑い。
この時点で、私も疑問が湧いていたのです。やはり一番の疑問点は、「なぜ第一発見者(しかも本当は犯人らしい)の倉木は逮捕されなかったのか?」でした。
「まぁ、これから真相が解明されていくんだろうな」とページを読み進めていくと、被害者の娘・美令と、被告人の息子・和真が「自分の父親像が事件の真相と合わない」ということで、協力して独自捜査していくことに。
白石弁護士殺人事件の担当である五代刑事も、倉木逮捕により「事件は迷宮入りしたんじゃないか?」ともやっとしたものを抱いていたため、和真たちに陰ながら協力していく。
その結果、暴かれたのは「白石弁護士が昔人を殺していた」こと、「倉木は白石弁護士が人を殺したことを知りながら隠した」こと、「冤罪で逮捕された男が自殺したことにより、家族をめちゃくちゃにされたと憤った、自殺した男にとっての孫(中学2年生)が白石弁護士を殺した」ことでした。
被告人である倉木は殺人を犯した白石を庇っただけで、本当に殺人を犯していたのは白石だった。美令たち被害者遺族は瞬く間に、殺人者の家族になってしまったのです。
世間からのバッシングや嫌がらせは、和真から美令たち白石家に移り変わる。「復讐ではなく、人を殺してみたかったから殺した」という中学2年生の少年には、その本心を知らない世間から同情の声が集まった。
この少年に対して、やるせなさというか、真相の中で唯一嫌な気持ちを抱きました。倉木と白石両名の立場や過去の秘密を共有してからの生き方には、嫌な気持ちは抱かなかったです。人殺しはもちろんいけないことですが、罪の意識をきちんと持って生きていました。
しかし、少年には罪の意識がなく、ある意味パフォーマンスの一種として殺人を犯しました(復讐のためだと言えば刑が軽くなる、というように、自分の身勝手な気持ちをたまたま見つけた自己保身の壁に隠した)。
最後の最後でとても嫌な気持ちになり、「他人を守るために罪を作った人」と、「自分の快楽のために罪を作った人」を対象的に見せることで、「作者の東野圭吾さんはこれを読者に提示したかったのかな」と思いました。
「これ」というのが、言語化が難しいのですが、人の罪、人の罰といいますか、「人間として生きる」ことについてなのかな、と。やはり、上手く言えない……。
ぜひ、この圧巻の長編小説を読んでみてください。そして、東野圭吾さんが伝えたかったことを、ぜひご自分の身で感じていただければと思います。