【click!】フリーライター始めました

【ポイズンドーター・ホーリーマザー】母と娘の関係を描く短編集

こんにちは、松波慶次です。
今回ご紹介するのは、『ポイズンドーター・ホーリーマザー』です。

タイトルから、すでにイヤミス感が溢れ出ています……。

以下ネタバレ注意です!

タイトル:ポイズンドーター・ホーリーマザー
著者:湊かなえ

あらすじ

妹ばかり甘やかし、姉である私には厳しい母親。里帰り出産をするために帰ってきた妹が、連続妊婦暴行事件に巻き込まれーー『マイディアレスト』。

些細なことですぐに被害者面し、「ごめんなさい」を引き出そうとする母親が押し付けてきた人生のレールから、女優になることで脱却した娘・弓香。ある日、「毒親」をテーマにしたトーク番組へのオファーを受け、母親と戦おうと決意しーー『ポイズンドーター』。

母と娘の歪な関係を主に描く6作収録の短編集。

感想

(あらすじを書いていて、最近短編集を読むことが多いな、と思いました。今作は、ページを開いて短編集であることに気付いたので、狙ったわけではありません(笑))

「毒親」という言葉を、いまや多くの方が知っていると思います。

ふと気になったので「毒親」と検索してみると、Wikipediaには以下のように載っていました。

毒親(どくおや、英: toxic parents)は、毒になる親の略で、毒と比喩されるような悪影響(人生の妨害[1])を子供に及ぼす親、子どもが厄介と感じるような親を指す俗的概念である。1989年にスーザン・フォワード(英: Susan Forward)が作った言葉である[2]。学術用語ではない。母の場合は毒母、毒ママ[3]、父の場合は毒父[4]等と称されている。スーザン・フォワードは「子どもの人生を支配し、子どもに害悪を及ぼす親」を指す言葉として用いた。(以下略)

引用元:Wikipedia

1989年に誕生した言葉であるとは……思っていたよりも前から存在していて驚きです(^^;

それが浸透していったのが、2000年以降なんですかね。といっても、2021年の現在で考えると、ここ数年な気もします。

今作には、このような「毒親」である母と娘の関係を描いた作品が主に収録されています。

『マイディアレスト』は、姉妹で母親の育て方に違いがあります。姉はちょっとしたことで怒られ、行動も男性との交際などを制限されます。妹は、姉のようには怒られない。妹がすることに対して寛容な母親は、「できちゃった婚」になった際にも文句一つ言いませんでした。

家族、恋人、友達……いずれにせよ、「比較」されることは嫌な気分になります。それが、一つ屋根の下で長年一緒に生活してきた姉妹が対象で、比較するのが育ててきた母親なら、なおさら。

しかし、「毒親だなぁ」と思いながら読み進めていると、最終作の『ホーリーマザー』で、「毒親とは?」ともやっとした気持ちになりました。

最終作とその1作前の『ポイズンドーター』は、繋がった話です。『ポイズンドーター』では、娘である弓香が母親の毒親ぶりを思い出し、トーク番組で母親が毒親だったことを暴露して、不本意にも母親を自殺に追い込んでしまいます。

そして『ホーリーマザー』では、弓香が親友と思っていた理穂や、他の人々が「弓香の母親は毒親じゃなかった」と声を上げ、弓香の女優業を追い込んでいきます。

理穂や他の人々の話を聞くと、確かに弓香の母親は「毒親」と一概に言えるものではありませんでした。それどころか、娘のために一生懸命だったことが伝わってきました。

当事者である弓香の怒り、それを冷ややかに見つめる理穂たち部外者……。誰が「毒親」や「毒娘」と判断するのか。第三者である部外者? いや、それは違う。やはり当事者ではないでしょうか?

家族に見せる顔と外部に見せる顔は、誰もが違うと思います。弓香の母親も、そうだったのではないか。娘のために一生懸命だったことは確かかもしれないけど、それが無意識に娘の人生を支配することになっていたとしたら、弓香としては窮屈に感じ、結果として「毒親」だと思っても仕方ないのではないか。

他人の気持ちを、人は分からない。推測することしかできない。推測でしかないものを相手に押し付けて、「母親は悪くなかった。あなたが悪かった」と言うことは、酷ではないでしょうか。

当事者にしか分からないことは、山ほどあります。それを真っ向から否定することは、部外者である他人がやってはいけないことだと思います。

他人ができることといえば、客観的に感じたことを伝えること。伝えられた当事者は、それをどう受け止めるかは自由だと思いますが、聞く耳を持つこと。

当人同士が話し合えば、誤解もとけてお互いの気持ちが通じ合うのではないか。そういう考えもあると思いますが、私は難しい気がします。母と娘という立場で、娘が幼いころから「頼らざるを得ない者」である母親の支配を受けていたとしたら、自立できる年齢になったとしても植え付けられた恐怖が邪魔をするのではないでしょうか。

弓香の母親が「毒親」だったのか、弓香が「毒娘」だったのか。部外者である私には分かりません。ただ、母親が自殺してしまったことは、弓香たち母娘(おやこ)にとって悲しい結末だと思いました。